京のかたな展に出品された刀たちを手に取って鑑賞してきた備忘録

日本美術刀剣保存協会-東京都支部
3月定例鑑賞研究会 「京のかたな展 出品刀を中心として」

■日時 2019年3月23日
■場所 東京美術倶楽部
■参加費 一般:3,000円


日本美術刀剣保存協会東京都支部主催の3月定例鑑賞研究会に参加させていただきました。
つるぎの屋さんのツイッターにて、今回は「京のかたな展」に出陳された刀剣を何振りか鑑賞できることをで知り、これは絶対に行かねばと思い上京。
手に持って重さを感じられたことや、予想外の刀の出品。
鑑賞・解説ともに、とても勉強になりました。
今回はブログ記事にすることを想定していなかったことや、刀の見た目よりも重さや感触を味わいたかったことからいつものようにメモをしていません…ほんとにぜんぜんメモしてないの。
記憶補完している部分もあるのできっと間違いもあります。個人の備忘録のつもりで感想シェア。
会場内は写真撮影NG。つるぎの屋さんがツイッターにたくさん情報をアップされているので、そちらを貼り付けさせていただきます。

鑑賞会概要

日本美術刀剣保存協会 東京都支部 3月定例鑑賞研究会
平成31年3月23日(土) 13:00~16:00
刀剣:「京のかたな展 出品刀を中心として」 冥賀吉也 講師
刀剣一本入札鑑定 冥賀吉也 講師
刀装具:「京都金工(後藤一乗は除く)」園平治・葉山修陽 講師
会場:東京美術倶楽部

出品作品一覧

入札刀

①千手院なんとか
②治衛門尉清光
③出羽大尉国路
④法城寺吉次
⑤固山宗次

鑑賞刀

机に並んでいた順に書いています。#がついているものは京のかたな展での出品番号
#54 小太刀 銘吉光
#16 太刀 銘国永
小太刀 伝三条
太刀 綾小路末行
短刀 吉光
太刀 国行
太刀 来国行
太刀 無銘来国行
太刀 来国俊
太刀 了戒
太刀 国俊(末国俊と書いているように見えたけれどきっと来国俊)
脇差 初代信国
短刀 長谷部国平
#132 刀 銘日州古屋之住実忠作/永禄九年七月廿二日
短刀か脇差 たしか日州古屋打ちの国広
たぶん刀の国広 ほか二振り
#124  短刀 銘国広(包丁正宗写)
#157  刀 銘於大阪和泉守国貞 重要美術品
#124  刀 丹波守吉道
#150  刀 用恵国包 重要美術品
#129  刀 肥前国忠吉 重要美術品

感想

#54 小太刀 銘吉光 鎌倉時代・13世紀
全長73.25cm 刃長58.2cm 反り2.04cm 重量523.5g

鑑賞刀の一番先頭に並んでいたのがこの小太刀。
刀の前に立ち一礼。その際にチラっと見たときは「なんだか新しそうな刀だな」と感じました。
小太刀なので長さはあまりありません。軽かったです。滑らかに整った肌が印象的。
板目肌がよく見えました。大肌や流れた風ではなくて、程よく大きさが揃っていてきれいなマーブル模様。肌目がよく見えるのに肌立ってはいない…コーティングされた表面の奥に肌目が存在しているような、奥行きがあるように見えます。

一回の鑑賞は約1〜2分程度と短いですが、何度も並び直すことができます。
かたな展に出品されていた作品の横には図録のコピーが添えられていたのですが、アウェイな環境で少しソワソワしていたせいか、一度目に並んだ時はそれの存在に気づきませんでした。新しい刀だからこんなにきれいなんだな、と思いながら終了。
次に並んだときにようやくかたな展で見た吉光の小太刀だと認識して戦慄!コレか!
かたな展で見たときはあまり好みではなかったようで、「かっこいいけれど変なとこで切ったみたい」「深く樋を掻く、腰の幅が太い」というような姿に関するメモが少し残っているのみでした。
確かに今回も磨上げたかな?と感じたけれど、それよりもこの刀はこれで完成された姿だという風に思えたのが不思議。
過去にガラス越しに見てきた吉光の短刀と比較すると、肌はよく見えるけれど博多や庖丁はよりは肌がおとなしめで、厚よりももっと鉄の色が深いといような…前田の板目に信濃の透明感をプラスしたかんじかしら?

#16 太刀 銘国永 平安〜鎌倉時代・12〜13世紀
全長94.25cm 刃長75.3cm 反り2.3cm 重量584.0g

池田家伝来の五条国永の太刀。
京のかたな展で見たときも「さすが池田家、いいもの持ってる」と思ったほど、まじまじと見ずとも優れた刀というのがわかるオーラを放っていました。
うぶ茎、均整のとれた姿、詰んだ肌。今まで見た国永の中で一番好きです。
先程の粟田口吉光の小太刀と比べると、この太刀の方が60.5gばかり重いです。しかし長さやバランスのせいか、その数字以上にズシっとした重みを感じました。
かたな展での感想メモは「姿よし、板目よく見える」「帽子の返りがきれい、帽子の沸」「小板目キラキラ、鋒まできれい」。
今回も目に入ったのはやはり板目肌のきれいさや姿の良さですね。
板目肌については、吉光の小太刀と同じく、表面は整っているけれど奥に板目が見えるというかんじ。
しかし質感はそれぞれ異なっており、吉光が湖面のような穏やかさだとしたら、国永は落ち着いたなかにキラキラと楽しげな雰囲気を感じました。きっと沸の効果。
小鋒が本当に上品。まさしく小顔。小顔スレンダー。けれどナヨっとはしていない強さのある腰。めちゃくちゃよかった。

短刀 吉光

刀剣乱舞には粟田口吉光の短刀がたくさん登場します。私もそのゲームをプレイしているせいか、「ゲームに登場する刀の兄弟に触れている」という感覚が強かったのがとても印象的でした。
やや肌立っていたのと、薙刀樋か何かが入った外見だったので、今まで見てきた号のある吉光の短刀と比べるとちょっと雰囲気が異なるように感じました。
短刀ってかわいいですね。ほしくなります。

来国行と来国俊の太刀

国行の太刀はぜんぶで三振り。一振りは身幅が広いもの、もう二振りは細身です。
国行は幅広のものと細身のもとの二通りの作風があると言われていますが、まさにそれ、というような姿をしていました。
幅広の国行は本当にがっしりとした姿。鋒側もそんなに細くはなっていなかったはず。
鎬も低かったのか、なんだかペタッとしていた印象がありました。
後述する国広ほか、江戸時代の刀たちよりは軽かったですが、それでも重みを感じます。
国行の作品のでお気に入りの「明石国行」も身幅が広い作風なので、こんな重さなのかなーと想像しました。

無銘来国行は、隣りに並んでいた来国俊と姿は似ていましたが、重さはそれよりもありました。

国俊二振りは「来国俊」と「国俊」と説明書きがあったので、後者はもしかしたら二字国俊でしょうか。
二振りとも前述の国永と同じような身幅・長さなのに、更に軽く感じました。
長いのに軽い。重量なのかバランスなのか。
特に来国俊は両手でホールドした時になんとも言えないフィット感がありました。
国永も持ちやすい重量だったのにそれとはまた違う、これを振ってみたいとか、これなら振れそうと思わせるようなしっくりした心地。
来国俊は好きな刀工なので、その感触を味わえただけで心が満腹。そのせいで刃文や肌はあまり覚えていません(笑)
特別になにか記憶に残っていないということは、違和感なく、いつも感じるようにきれいな来国俊だったんでしょう。

太刀 了戒

金筋砂流しが刀身全体にあり、1〜2分という少ない鑑賞時間の中でも刃中の働きがぱっと目に入ってきました。
何周か鑑賞してもこの太刀が一番働きが多く見えて、鑑賞が楽しかったです。
了戒は来国俊の子とされて、この太刀も来派の雰囲気を感じました。
国俊と比較すると、重量や姿、鉄の色など全体的に重い雰囲気…というか国俊が軽やかなのかな?

初代信国と長谷部国平

信国は了戒の弟子で、南北朝時代の山城の刀工。
来・了戒風の作風と、正宗・貞宗風の作風がありますが、鑑賞したものは彫り物もあったせいか相州伝の雰囲気でした。
長谷部国平は長谷部国重の門徒らしいのですがあまり資料がなく、現存作も多くないとのこと。
それを知っていればもっとじっくり見ていたのかもしれませんが、
「あ、長谷部だ。やっぱり皆焼っぽいなー棟の焼の沸はこんなふうにつくのか。きれいだなー」といういつものような感想を抱いてしまいました。

#132 刀 銘日州古屋之住実忠作/永禄九年七月廿二日 室町時代・永禄9年(1566)
ほか堀川国広の刀たち

この刀以降、一気に重量を感じるようになりました。
国広のもそう。重いです。刀身全体的に肉が付きマスキュラー。片手で持ち上げるのが怖かったので両手で持ちました。
堀川国広は「ざんぐり」と呼ばれる特徴的な肌をしています。これがどういうものかイマイチわかりかねていたのですが、間近で刀剣を何振りも鑑賞してから国広に臨むと、これか…?と思えるような違いを見て取れました。
以前刀剣商さんが『表面に湯垢がついて見えて、その奥に整った肌が見える』というような表現をされていたのですが、表面に湯垢とはなるほど納得。沸?かなにかがいくつかくっついて塊にになり、表面にボツボツと付いているように見えました。
日州なんとかと書き添のある大黒様が彫られている国広は、短刀 銘日州古屋住國廣作 天正十四年八月彼岸脇差 銘藤原国広 在京時打之 天正十九年八月日に見た目が近いです。表に梵字、裏に大黒様。こちらのサイトに脇差の画像を確認できます。
山姥切国広も有している具の目の頭が割れていてフリルのようになっている刃文、日州古屋打ちではない国広にそれがあったと思います。

#124 刀 丹波守吉道

京のかたな展で見た時よりも簾刃がはっきりくっきりよく見えて感動しました。
簾刃を見る機会があまり無いので、コレ!という像がまだ頭の中に無いのですが、言葉で説明していると「横にシャーっとなっている」ですね。
砂流しも「横にシャーっとなっている」と表現しますがが、簾刃は刃文なので砂流しと比べると大きいです。
銘がのびのびしていて自由そうなのが印象的。


和泉守国貞はなにも見なくても肌を見ただけで国広一門だとわかるだとか、今回国広の「ざんぐり」は捉えることができたのに、そっちに集中していて肥前忠吉の小糠肌はちゃんと見えていたかどうかな という感想。

この頃はまだ用恵国包の良さがピンと来てないので「ふぅん」くらいの感想だったのですが、のちに国包をたくさん集めた展覧会にて良さを知りました!
主張は強くないのに、でもちゃんと個性・こだわりを感じ、そしてスーツ姿にしっかりとネクタイを締めているようなちゃんとした雰囲気が素敵な刀です。

関連リンク

鑑賞刀の感想は以上です。
鑑定刀についても少しメモしたので残しておきます。
①千手院なんとか→大和物だと判断できる。尻懸則長が一番近い
②治衛門尉清光→長船の刀工。長船清光は何人かいる。その中でも室町時代の孫右衛門尉清光に近い。鎬を盗んでいるのが末古刀の特徴。
その中でも重ねが薄いものは末備前、厚いのは関物と判断できる。
③出羽大尉国路→国広一派 ざんぐりが見られる
④法城寺吉次→30年ぶりにでてきた刀で、なかなか知っている人はいない。元禄っぽい姿
⑤固山宗次→江戸時代後期の刀工・長運斎綱俊(ちょううんさいつなとし)の刃文に近い

会場内あれこれ

参加者は約70名ほど。そのほとんどが日刀保の会員の方。
数ヶ月前からつるぎの屋さんが「京のかたな展出品作品を鑑賞します」「一般の方も参加できます」とツイッターで宣伝されていたので、さぞかし一般参加の人でモリモリに混んでいるのだろうと予想していました。まったくそんなことはなかったです。ちょっと意外。
もちろん70人もいるので閑散としているわけではなく、程よく混んでいるといった具合でした。鑑賞の待ち時間があまり長くなくてラッキー!
宣伝ツイートはこんなでした。

ここから調整されて今回のラインナップになったのですね。
冒頭にも書きましたが、このツイートを見てこれは行くしかない!!と思い、即スケジュールを確認しました。
刀剣博物館の重要刀剣等指定展の期間中だったので、合わせて行けたのも良かったです。

鑑賞の流れ

入札刀5振り、鑑賞刀約22振りがズラッと机に並べてあります。
一振りを鑑賞できる時間は約1~2分で、時間が来たらタイマーが鳴り次の刀へ移動するという、大人数での鑑賞会ではよくあるスタイル。並び直せば同じ刀を何度も鑑賞することができます。
一人回転寿司(ネタではなく自分が回る)のようなイメージでしょうか。
今までにも何度か経験したことがありますが、手に持っての鑑賞はあまり慣れていないので、刃文や働きを捉えるのに時間がかかりました。ガラスケース越しとは違う目線、勝手が違うんですよね。おまけに持ち時間が短い!

入札は強制ではなく、鑑賞のみでもOK。
入札の経験がなく、あまり自信もなかったのでほっとしました。

受付から鑑賞まで

会場に着いて受付を済ませあとは、特に何か聞かれたり指示されたりなどがありませんでした。(会員ではないため何か指示があるのかと思っていました)
うーん、これはもう自由に鑑賞をはじめてよいのか?と様子を探っていたところ、会場内に顔見知りのフォロワーさんを発見。流れを教えていただけて大変助かりました。ありがとうございます。

鑑賞会によっては作法を知っていることが参加条件であったりするので、はじめての方は事前に確認するとよさそうですね。
ちなみに私は日刀保でのマナー講座を受けたことは無いのですが、手に持っての鑑賞経験があり、事前に作法を知っていると伝えたらそれでOKでした。
マナー講座の受講はこちらに情報があります☛日本美術刀剣保存協会マナー講座

一般参加者から見た会場の雰囲気

「はじめて?一人で来たの?」というような、声がけの多いいわゆる初心者向けの鑑賞会ではなさそうと感じました。
そういう場に不慣れな人には、もしかしたら一人で参加するのはハードルが高いかもしれないです。
その反面、まったく話しかけられないので淡々と鑑賞することができます。

さいごに

はじめての日刀保の鑑賞会、参加させていただいてとても楽しかったです。
二度と手にとって鑑賞できないような刀を鑑賞させていただいたプレミアム感と、好きな刀工の作品を直に触って重さを感じることができたこと。
とても心が満たされました。
そして冥加先生の解説がとっっっってもわかりやすかったです。
冥加先生の解説はとにかく言葉がスルスルと頭に入ってきて、ははぁなるほど~がたくさんありました。また聞きたいです。
あれ、いま文章に起こしていた思ったのですが、刀剣解説の「わかりやすい」ってなんなんでしょうね。)

今回出品されていた入札刀は、千手院と固山宗次以外は知らない刀工でした。出羽大掾国路は平安城国路としてもしかしたら見たことがあるかも…?
美術館や博物館で刀剣鑑賞をしていて、最近は「ガラス越しの限界」を感じるようになってきました。
ガラス越しだと、自分の鑑賞スキルのほかに展示施設の環境もあります。
照明や角度、距離。自分では変えられないが故に見ることのできない「ガラス越しの限界」。
刀剣界の先輩たちは皆「刀剣はガラス越しではわからない。実際に手にとって見るのが一番」とおっしゃられるのですが、それの意味がわかってきました。

そしたらば。
手にとって見ることのできる機会は、どれくらい身近にあるのだろう?
手にとって見るのが一番とは言うけれど、そんな機会あんまりないんじゃない?

機会は存在しているけれど、その情報にたどり着くまでに必要な熱量。
刀剣ブームが続くなか、こういうところは今後どう変わっていくのかなと思う刀剣訪問ブログなのでした。おわり

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