戦場が求めた用は美と相成る「特別展 侍~もののふの美の系譜~ The Exhibition of SAMURAI」

9月7日よりスタートしました、福岡市博物館での展覧会”侍展”。4月にはすでに飛行機のチケットを確保していたくらい、個人的には今年一番楽しみにしていた展覧会です。大変ありがたいことにメディア向け内覧会に参加させていただけたので、今回の記事は写真付きでお送りします!

注:ここで掲載している写真について
・掲載OKをいただいている作品のみを載せています
・途中で公開方針が変更になった場合はそれに従います
・すべての写真は無断転載不可とします よろしくおねがいします

展覧会概要

展覧会名:特別展 侍~もののふの美の系譜~ The Exhibition of SAMURAI
期間:2019年9月7日〜11月4日
会場:福岡市博物館
公式HP:https://samurai2019.jp/

この展覧会がこれまでの刀剣や甲冑が展示されている展覧会と一味違うところは、完全に武器・武具に焦点をあてているところです。
人ではなく、道具が主役
「時代や戦闘スタイルの変化で、道具もかたちを変えてゆく」
刀剣ファンのみなさんならもうご存知のことでしょう、武器である刀剣が変われば、防具である甲冑も当然変化してゆきます。
この展覧会では、平安時代から桃山時代という長い期間を経て、刀剣・甲冑たちがどのように進化してきたかを約150点(うち7割が国宝・重要文化財指定)という膨大な作品数を通して紹介してゆきます。

心がウキウキ!見所をよく引き出された刀剣たち

特筆すべきは刀剣の見やすさ!!びっっっくりしました。
この「刀剣の見やすさ」というのは知識がある人の言い方になるので、わからない方にとってはなんのこっちゃ?と思うかもしれません。まずはその説明から。

日本刀鑑賞には光がとても重要で、ちょうどよく光が当たらないと刀の特徴や美しさを探し出すことができないのです。同じ作品でも、展示会場の照明設備や展示角度により見え方が異なるので、自分自身が体を上下左右に動かしながら見えやすい位置を探ります。
一生懸命背伸びをしてみたり、膝をついて下から覗き込んでみたり、「見えない展示」だとこの動作がなかなか大変なんですよね。

この展覧会ではほとんどと言っていいほどその必要が無かったのです。
もちろん身長にも左右されますが、ほんのちょっと体を動かす程度で見たい場所に広範囲で光が当たるのでものすごくラクチンでした!

【侍展 内覧会速報】 文句なしによく見えます。ヒール込み167cmくらいの視点ですが、
基本的にやや屈むぐらいの見やすい姿勢で、刃文から肌から映りも水影も全部よく見えます。 
キャプションは来歴と用語が多め。
興味を持って勉強してきた人、刀剣鑑賞を思いっきり楽しんできて!
で、用語とか専門的な知識がないと楽しめないかというとそうではなくて。
おそらく一番とっつきやすいのか刃文かと思いますが、変化に富んだものや、
ピシッと決まっているものが多いので目に楽しいかと。
吉光・貞宗は寝せて展示してあるので見逃さないようにね!

内覧会終了直後の私の速報ツイート。(事情により元ツイートは引用しません)
やはり見やすさが印象的で、そのことを一番に伝えたかったんですね。
肩肘張って一生懸命に見ようとせずとも見所が目に入ってくるので、今まで刀の勉強をしてきた人にとっては「あ、これ知ってる」「見たことある!」が見つけやすくて感動できるだろうなと感じました。

そして2つめのツイート。実はこの時ちょっと感覚を整理しきれなくてうまく表現ができなかったのですが…何を言いたかったのかというと「わからなくても楽しめる」です。
なぜならばモノがとってもきれいに見えるように展示してあるから。
キャプションも用語を交えてやや硬めに書かれていますが、
遠くから見ても近くから見ても刀身がキラキラと輝いているし、展示刀剣自体も刃文や彫り物が特徴的なものが多かったので純粋に目が楽しいんですよね。

13. 重要文化財 太刀 銘 正恒 平安時代 東京・刀剣博物館

クッキリと見える水影。刃区(はまち)のところに左斜め下に入る白い線が水影です。 水影が見える刀剣が3振りほどありました。(普通はそんなに見ることがない)

太刀 名物 日光一文字 IMG_3932
33. 国宝 太刀 名物 日光一文字 鎌倉時代 福岡・福岡市博物館
太刀 銘 一 号 姫鶴一文字 IMG_3946
35. 重要文化財 太刀 銘 一 号 姫鶴一文字 鎌倉時代 山形・米沢市上杉博物館

華やかな丁子の刃文が目に楽しい一文字の傑作たち。

こだわりの展示方法

上の写真を見てお気づきになった方はいらっしゃるかしら…
3枚とも太刀の写真ですが、刃が上を向いていますね。

日本刀を展示する際は太刀の場合は刃を下向きに、刀の場合は刃を上に向けて置きます。これは腰に下げた際の向きに準じています。

今回の展示ではすべての刀剣が刃を上に向けた「刀置き」のスタイルで展示してありました。内覧会でこれを見て疑問に思ったので学芸課主査の堀本さんに尋ねてみたところ、以下の二つの理由を教えていたただきました。
(注:一言一句を正確にメモしたわけではないので表現の違いがある可能性があります。)

1. 刀身保護のため

大太刀などの大きく重さのある刀剣は、自重で刀掛けに刃がめり込み、刃先が傷ついてしまうことがあるそうです。
各地からお借りした貴重な刀剣たちなので、大切に扱いたいとのことでした。

2. 刀剣をよく見せるため 〜照明設備との相性〜

福岡市博物館の展示ケースの照明は、上からのみ照射されるようです。
そのため通常の太刀置きのように刃を下に向けて展示すると光が当たりづらく、美しさを引き出せない→刀身保護の理由も相まって上向きに展示することにしたとのことでした。

両方の理由にとても納得です。
通例にこだわらず、博物館の設備を考慮して展示を工夫しているところが素敵ですね!
(刀掛けも材質が様々あるので、必ずしも刃が接してる場所が傷つくというわけではないです。念のため追記します)

見やすさへのこだわりは図録にも

図録をめくってみると、こちらでも通常の展示とは異なる点を発見しました。
刀剣の写真が白黒なのです。
近年の大きな展覧会で発行された図録は、だいたいがカラー写真を使用しています。なのになぜ?疑問に思ったのでこれも尋ねてみたところ、やはり見やすさを重視してとのことでした。白黒の方が刃文がよく見えるんですって!

「振り下ろさずともよく斬れる刀」 図録の圧切長谷部のページ。 各作品に一言キャッチフレーズが添えあるので、特徴がつかみやすい。
刀剣類は基本的に白黒写真ですが、一国長吉の鮮やかな朱漆はカラーで掲載。 こだわりが感じられます。

展示室内と展示品

展示室入口
このように裏側も見ることができる展示ケースがいくつかありました
吉光・西蓮・貞宗は横に寝せて展示してあります。
手に持って刀剣鑑賞をする時のように、体を前後させるととてもよく見えます。

個人的に気になった作品をいくつか紹介したいと思います

15 国宝 太刀 銘 光世作 名物 大典太 平安時代

(こちらは撮影NGのため画像無し)
平安時代の太刀の特徴として挙げられる”踏ん張りがつき小鋒”な姿とは程遠く、腰から鋒までしっかりと身幅があり大鋒を有する迫力のある姿をしています。同刀工作のソハヤノツルキウツシナリをみたことがある人には親しみを感じられるのではないでしょうか。
彫り物は鎬地全体に掻き流された棒樋と、腰に添樋。
鎬地いっぱいに樋がある刀剣はめずらしいわけではないのですが、如何せん大典太は身幅が広い。なので樋の幅もよく見る棒樋と比べるとかなり幅広く掻いてあります。
刃文は直刃調に小乱れを交え(二重刃や湯走りのようなものも見えた気がするけれどまた確認します)、肌はところどころ板目がよく見えます。内側から光を放っているような明るさがありますが、それは決してギラギラとしたものではなく、どこかしっとりと落ち着いた雰囲気を含んでいるように感じました。

4年ぶりに見る大典太。
「他の天下五剣と比べて太くて短い」くらいの感想しか抱けなかった当時。勉強し、多少見る目を養って今再び合間見えたことを大変幸運に思います。

12 重要文化財 太刀 銘 備前国□□(伝友成) 平安時代

重要文化財 太刀 銘 備前国□□(伝友成) 平安時代
重要文化財 太刀 銘 備前国□□(伝友成) 平安時代 山口・毛利博物館

「友成はちょっと難しい」と日頃つぶやいている私ですが、この友成には驚嘆させられました。体配のバランスを欠くことなく長大で、そして堂々とした姿に刀工のセンスを感じます。かっこよすぎ。時が止まった。尊い。
今のところ、私の中では2019年のベスト・刀・オブザイヤーです。

17 重要文化財 太刀 銘 波平行安 号 笹貫 黒漆太刀拵付 鎌倉時代

重要文化財 太刀 銘 波平行安 号 笹貫 黒漆太刀拵付 鎌倉時代
重要文化財 太刀 銘 波平行安 号 笹貫 黒漆太刀拵付 
重要文化財 太刀 銘 波平行安 号 笹貫 黒漆太刀拵付 鎌倉時代
重要文化財 太刀 銘 波平行安 号 笹貫 黒漆太刀拵付 

あまり展示されることのないレアな刀剣。京都国立博物館所蔵。私も今回初めて目にすることができました。
まず目に留まったのはその肌。とても滑らかで手触りが良さそう。シルクのようなかんじ。
肌の他にもう一点注目したいのが刃文の始まり(鋒ではなく茎側の方)のところ。刃文の始まりが刃区(はまち)からではなく、刃の途中から始まる「焼き落し」という状態になっています。さらによく見ると刃文に沿って淡く斜めにモヤがかった「水影」があることがわかります。焼き落しと水影がこんなにクッキリと同居している刀剣を見たことがなかったので珍しいと思いました。

63 国宝 大太刀 銘 備州長船倫光/貞治五年二月日 朱塗野太刀拵付、64 重要文化財 大太刀 号 瀬昇太刀

国宝 大太刀 銘 備州長船倫光/貞治五年二月日
国宝 大太刀 銘 備州長船倫光/貞治五年二月日
南北朝時代・貞治5年(1366)  栃木・日光二荒山神社
重要文化財 大太刀 号 瀬昇太刀
重要文化財 大太刀 号 瀬昇太刀 南北朝時代 栃木・日光二荒山神社 

大太刀はどちらかというと野趣があるというか、大きくて迫力はあるけれど、肌や刃文はそこまで技巧的な要素を感じなかったのがこれまででした。あれ、大太刀ってこんなにきれいだっけ?と思うほどに二振りとも美しい大太刀でした。乱れ込んだ帽子や映りがよく見えます。

71 国宝 短刀 銘 左/筑州住 名物 太閤左文字 南北朝時代

国宝 短刀 銘 左/筑州住 名物 太閤左文字
国宝 短刀 銘 左/筑州住 名物 太閤左文字
南北朝時代 広島・ふくやま美術館(小松安弘コレクション) 

いままで何度か見る機会のあった太閤左文字ですが、今回の展示でようやく良さがわかりました!なんともいえない涼やかな地鉄ですね。

114 火縄銃 太郎坊、115 火縄銃 次郎坊、116 火縄銃(「春山」銘金象嵌) 桃山時代

114 火縄銃 太郎坊、115 火縄銃 次郎坊、116 火縄銃(「春山」銘金象嵌)
福岡・福岡市美術館(黒田資料)

太郎坊・次郎坊だなんてなんだか天狗のような名前だな、と思ったら太郎坊には烏天狗の象嵌があるんですって。そして次郎坊には「愛宕山大権現」の象嵌。愛宕山といえば修験道と天狗伝説。神仏の加護を得ようとしたのでしょうか。

108 国宝 刀 金象嵌銘 長谷部国重本阿(花押)/黒田筑前守  名物 圧切長谷部谷部 南北朝時代

国宝 刀 金象嵌銘長谷部国重本阿(花押)/黒田筑前守 名物 圧切長谷部 南北朝時代
国宝 刀 金象嵌銘長谷部国重本阿(花押)/黒田筑前守  名物 圧切長谷部
南北朝時代 福岡・福岡市博物館(黒田資料) 
国宝 刀 金象嵌銘長谷部国重本阿(花押)/黒田筑前守 名物 圧切長谷部 南北朝時代
国宝 刀 金象嵌銘長谷部国重本阿(花押)/黒田筑前守  名物 圧切長谷部
南北朝時代 福岡・福岡市博物館(黒田資料) 

語るまでもなく美しい、福岡市博物館所蔵の圧切長谷部。
反りの少ない刀身と大きな鋒のせいか、姿だけなら突き刺すような鋭い雰囲気。対して千変万化の皆焼は柔らかく、そのアンバランスさにこの刀剣の深みを感じます。
今回は乱れ込んだ帽子もよく見えたのが嬉しかったです。

もっとたくさん紹介したいけれど、記事が終わらないのでここまで!

とにかく見ることが楽しかったですねえ
侍展の期間中、一ヶ月ほど福岡に滞在するので通いながら理解を深めたいと思います。
そして甲冑。
甲冑についてはまったく詳しくないのですが、いまだに鮮やかさを保つ鎧の糸や螺鈿をふんだんに使った鞍は見ているだけで楽しかったです。


61 重要文化財 浅葱糸腰紫威鎧 兜・大袖付
南北朝〜室町時代初期 岡山・豊原北島神社(岡山県立博物館寄託)

27 重要文化財 波文螺鈿鞍 鎧付 鎌倉時代 福岡・福岡市美術館(黒田資料) 

150字で推しを語れ!真摯な情熱溢るる「私のイチおし」企画

侍展では出陳される作品に自分のキャプションを添えることのできる企画「私のイチおし」が開催されました。一人3通まで応募でき、同じ作品に3通でも、別々の作品に1通づつでもOK。しかし採用は1展示品につき1点までという狭き門。

好きな作品に自分のキャプションが添えられるなんて!
しかも採用されると侍展の開会式に招待していただけるとのこと。これはもう何が何でも絶対に!書いて!採用されたい!と妙な執着を持ってしまったので、無い文才を絞り出して

  • 16 国宝 太刀 銘 豊後国行平作(古今伝授の太刀)
  • 32 重要文化財 太刀 銘 則宗
  • 72 国宝 太刀 銘 筑州住左 名物 江雪左文字

の3点に応募してみました。

これがまた難しくて。
150字という決して多くはない文字数の中にきれいにまとめることをはじめ、展覧会の内容に沿っているか、展覧会公式キャプションがどんなことを書いてくるかの兼ね合いなど、必要かはさておき想像できることがあったのでものすごく悩みました。
はたして結果は…!?

「私のイチおし」太刀銘則宗

じゃん。
なななんと、則宗で採用していただきました!

ほかの採用作品も拝見してみると、もう素晴らしいの一言ですね。
展示品とまっすぐ一対一で向かい合っている空間が目に浮かび、書いた方のキラキラとした想いが伝わってきます。そしてどれも文章が上手い!!
私が落ちた江雪左文字。採用された方の作品を見て、素直にあーーーこれは敵わないと思いました。展覧会後期に展示される古今伝授の太刀には、どのような力作が添えられているのか、とても楽しみです!

ちなみに則宗ですが、太刀なので太刀置き、つまり刃を下にして鋒が上を向くように展示されることを想定して書いたのでちょっと…鋒について書いたところに違和感を抱くかもしれません。ということを弁解させて〜〜

そのほかいろいろ

内覧会にて。左から福岡おもてなし武将隊、堀本学芸員、おっきいこんのすけ。

開会式のテープカット。侍展いよいよ開幕!

音声ガイド

刀剣乱舞-ONLINE-にて日本号の声を担当する津田健次郎さんによる音声ガイドです。声が良すぎて展示作品に集中できないとネットでは評判ですが、私もまったく同じことを思いました(笑)最高です。
刀剣男士の日本号としてお話してくれるトラックもあるので、刀剣乱舞プレイヤーは必聴!

物販

侍展オリジナルグッズをはじめ、各地の美術館・博物館の関連商品も扱っています。

赤背景がカッコいい!

ツイッターでは侍展グッズコーナー公式アカウントも開設されています。
商品紹介や在庫状況の案内があるので気になっている人はチェック。

前売りチケット

何種類かの特別前売りチケットが販売されました。
私が買ったのは前売り券5枚とチケットホルダーのセットです。

三つ折りのチケットの表紙は様々なスタイルの甲冑たち。開いてみると…

刀剣男士とその本体があらわれます。入場時は下の金色の部分だけを切り離して渡すので、保存できるのが嬉しいですね!

刀剣乱舞-ONLINE-とのコラボ恒例 パネルとイラストの展示も。

イベントも盛りだくさん

展覧会期間中には銘切体験や甲冑レプリカ着用体験、記念公演などたくさんのイベントの開催が予定されています。
個人的にものすごく気になるのが福岡美容専門学校とのコラボレーションであるネイル体験!刀剣男士がモチーフになっているのは一目瞭然。これがワンコイン!かわいい〜〜
詳細:侍展×FUKUBI 刀剣ネイル体験イベント 2019年9月14日・15日http://www.ffac.or.jp/news/detail378.html

おわりに

予想を上回る楽しさを浴びた侍展初日。
「大きい展覧会」となるとついつい昨年開催された京都国立博物館での「京のかたな」展を思い出してしまいます。
京のかたな展では展示品も含めて全体的にプライドや格式張っているような雰囲気を感じたのに対し、侍展ははなぜかお祭りのような明るくめでたい雰囲気を感じました。難しく考えることなく楽しめるっていいですね。

要望のあった刀の展示角度の調整や、作品をより見やすくするために鏡を設置するなど、展覧会がスタートしてからすでに細かな変更・対応もされています。
たくさんの人が私のようにこの展覧会を楽しめることを期待しつつ「戦場が求めた用は美と相成る 『特別展 侍~もののふの美の系譜~The Exhibition of SAMURAI』」を終わります。

特別展 侍~もののふの美の系譜~The Exhibition of SAMURAI
期間:2019年9月7日〜11月4日
会場:福岡市博物館
公式HP:https://samurai2019.jp/

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