■日時:2019年8月22日
■場所:高岡の森弘前藩歴史館(青森)
■入館料:大人300円
■交通費:0円(自家用車)
以前から気になっていた「高岡の森弘前藩歴史館」に刀を見に行ってきました。
弘前ってなんて読むの?どこにあるの?なんで友成が青森にあるの?など知らない人にとっては謎が多い”みちのく”の施設かと思いますので、展示品の前にいろいろ説明したいと思います。
- 1 展覧会概要
- 2 高岡の森弘前藩歴史館とは
- 3 館内・展示品など
- 3.1 10 刀 銘 表 相州住綱廣/裏 主越中守信繁作之桃山時代〜江戸時代初期 県重宝
- 3.2 13 大薙刀 銘 表 平安城住藤原國路作/裏 慶長拾六年八月吉日江戸時代 弘前市指定有形文化財
- 3.3 9 太刀 銘正恒鎌倉時代中期〜後期 黒石市指定有形文化財 ※撮影不可
- 3.4 15 太刀 無銘 伝相州行光 鎌倉時代 県重宝
- 3.5 16 太刀 銘友成作平安中期〜鎌倉中期 重要文化財 附 糸巻太刀拵
- 3.6 17 太刀 銘真守 鎌倉時代後期 重要文化財 附 糸巻太刀拵
- 3.7 21 刀 無銘 伝月山
- 3.8 22 刀 銘 表 備州長船住祐定/裏 天正十二年八月日 安土桃山時代
- 3.9 29 十文字槍 銘兼常
- 3.10 24 短刀 銘 表 信國/裏 応永二年三月日室町時代 県重宝
- 3.11 33 薙刀 銘出羽大掾藤原國路 江戸時代初期 県重宝
- 3.12 35 刀 銘 表 濱部眠龍子壽實/裏 文政元年五月日 江戸時代 県重宝
- 3.13 38 脇差 銘相模守来國吉江戸時代 弘前市指定有形文化財
- 3.14 39 刀 銘 奥州弘前住助宗江戸時代 弘前市指定有形文化財
- 4 キャプションはこんなかんじ
- 5 そのほか
- 6 アクセスについて
展覧会概要
展覧会名:日本刀の美
会場:高岡の森弘前藩歴史館
会期:2019年7月19日〜9月16日
ホームページ:http://www.city.hirosaki.aomori.jp/takaoka-rekishikan/
展示品リスト:http://www.city.hirosaki.aomori.jp/takaoka-rekishikan/201907syuppinmokuroku2.pdf
弘前藩に伝わる刀剣類と拵を30点以上展示。半分以上が市指定、県指定の文化財で、国指定重要文化財も2点あります。
今回は一部展示品を除き、写真撮影&SNSがOKとのこと。ありがたや。
高岡の森弘前藩歴史館とは
高岡の森弘前藩歴史館(以下歴史館)は、青森県の西側、弘前(ひろさき)市にあり、名前の通り弘前藩に関する資料を展示・保管している施設です。
以前は高照(たかてる)神社宝物殿として運営されていました。高照神社はもともと第4代弘前藩主・津軽信政の霊廟で、のちに歴代の藩主に信仰される神社となります。なので鎧や刀、調度品などの藩主ゆかりの品が宝物として奉納されていました。
2018年の4月1日には建物も新たに市営施設としてリニューアルオープン。宝物殿の頃は年に数ヶ月、夏季のみの開館でしたが、現在は一年中開館しています。
お話を伺ったところ、岩手の一関市博物館や宮城の鹽竈(しおがま)神社博物館よりも刀剣の常設展示が多い=東北で一番くらいに多いのでは?とのこと。
青森県内の刀剣展に行くのはこれで3度目だけど、ブログ記事にするのは今回がはじめてなので「津軽と南部」についてちょっと書こうかな。
歴史館のある弘前市は、青森県の津軽地方と呼ばれる地域にあります。
みなさんが青森といって思い浮かべるものは一面のリンゴ畑やねぶた、津軽弁でしょうか。これらはおおよそ津軽地方の文化です。
私の出身である八戸市や、下北を含む青森県の東側は旧南部藩領である南部地方。
さらに南下し岩手県の真ん中あたりまで旧南部藩領だったので、同じ青森県民でありながら言葉や食・文化はどちらかというと岩手県北の方が近く、個人的にも親しみがあります。(ちなみにみなさんが知っている刀剣に絡めた話をすると、盛岡南部藩は亀甲貞宗を所有していた時期があります。)
八甲田連峰という山々で東西が隔てられている上に、車で2時間半〜3時間という距離(名古屋から京都に行くような感覚だと思っていただけるとわかりやすいかな?)なので、津軽と南部は地理的にも心理的にも互いにやや遠いという感覚があります。
まぁ、こういうのは面積の広い県あるあるですよねー
前置きも長くなってきたので、そろそろ次に移ります。
館内・展示品など
遠方からの来館者が多いことにちょっと驚きました。会期が夏休み期間なので帰省がてら訪れる人も多いのだとか。
新しい施設なだけあってモダンな印象。
では、おすすめや気になった刀をピックアップして紹介していきます。
10 刀 銘 表 相州住綱廣/裏 主越中守信繁作之
桃山時代〜江戸時代初期 県重宝
刀と区分されていますが大太刀と言えるような大きさ。104.4cm。
3代目相州綱廣の作。藩主が相州より呼び寄せて300振りも作刀させたそうです。
鋒まで身幅広く大鋒。帽子は乱れて返る。小互の目、小丁子主体の刃文。
鎬地に棒樋を掻き、腰に八幡大菩薩の彫り。
拵は鮮やかな朱塗銀蛭巻鞘打刀拵(しゅぬりぎんひるまきさやうちがたなこしらえ)
13 大薙刀 銘 表 平安城住藤原國路作/裏 慶長拾六年八月吉日
江戸時代 弘前市指定有形文化財
刃長は91.2cm、刃と茎を合わせて全長205.2cmにもなる大薙刀。全体を撮影していないので長さがちょっとわかりづらいかも。通常の薙刀と比較してどっしりと幅広の刃をしていました。大きく反る巴形。先端にある茶色い部分はサビです。
刀エリアに入ると上の2振りを含む大太刀と大薙刀が4振り並んでいて、非常にインパクトがありました!
9 太刀 銘正恒
鎌倉時代中期〜後期 黒石市指定有形文化財
※撮影不可
正恒と言われたら正恒だけど、いつも見る正恒とはちょっと異なった印象。
中反りに近い腰反りだけど、茎のサビ具合を見るとやや磨上げたかも?→元はもっと腰反りかもしれなかったことが想像できます。
腰に棒樋と添樋を彫っているところもまた正恒ではあまり見ないような…?
そういう部分がいつもと違うと感じさせたポイントなのかもしれません。
映りは照明と角度でよく見えませんでした。
15 太刀 無銘 伝相州行光 鎌倉時代 県重宝
これも茎のサビ、目釘孔、樋の位置から見て、磨上げられていることがわかります。 4つある目釘孔のうち茎尻にある1つは埋めてあります。
全体的に細身でやや華奢な印象。鋒も小さいです。
大きい杢目を随所に交える板目肌。あまりキラキラはしているようには見えなかったけれども、全体的に沸がち。小のたれ主体の刃文で金筋砂流しがしきりに入る。
ものすごくうっすらとカメラでは撮れないような地斑も見えました。
16 太刀 銘友成作
平安中期〜鎌倉中期 重要文化財 附 糸巻太刀拵
いつも「友成はどこか捉えようがなくて苦手だ」と言っている私ですが、これはすんなりと入ってきました。好きです。
強い反り、3.4cm。雉子股形の茎はかなり細いです。鋒がかなり研ぎ減っていそう。鎬が低くて(鎬筋の部分に厚さがない)平べったい印象。
先ほどまで見ていた刀たちと比べると断然肌がきれいでした。整っています。
刃文は小乱れを交えた中直刃で、匂口締まる。
乱れ映りとはまた違う、ゆらゆらした兵庫守家のような、滲みのような映りがありました。
糸巻太刀拵と刀掛け。鞘を装飾している螺鈿の破片が大きいです。刀掛けもとても立派。美しい!
17 太刀 銘真守
鎌倉時代後期 重要文化財 附 糸巻太刀拵
まさかのピンボケな姿の写真。
伯耆安綱の子の真守ではなく、備前国畠田の真守。守家の子。
匂深く(刃文の縁に幅がある)小互の目交じりの丁子刃を焼き、足、葉がしきりに入ります。
杢目交じりの板目肌流れ、ガサガサしているように見える肌立ち具合でした。
21 刀 無銘 伝月山
やっぱり見ていて楽しい綾杉肌
22 刀 銘 表 備州長船住祐定/裏 天正十二年八月日 安土桃山時代
“長船祐定”は刀工個人の名というよりかは工房名ですね。この名前を名乗っていた刀工は60名以上いたと言われています。
私が長船祐定で思い浮かべるのは「カニの爪」と呼ばれる腰の開いた互の目のような刃文を焼く”長船与三左衛門尉祐定”ですが…こちらの祐定はそれではなさそう。
互の目主体っぽいけれどおとなしめの刃文で、蟹の爪は見当たりません。足・葉入る。刃縁の沸がきれいでした。
29 十文字槍 銘兼常
24 短刀 銘 表 信國/裏 応永二年三月日
室町時代 県重宝
3代目か4代目の信国の作。品の良い姿!
彫物は素剣と梵字で、梵字は不動明王。きれいな細直刃。
33 薙刀 銘出羽大掾藤原國路
江戸時代初期 県重宝
堀川国広の弟子、國路の作。
帽子が尖っているせいか鋒がとてもシャープに見えます。
乱刃ということはわかるけど、照明と刃取りでちょっと見えづらかったです。大きめの互の目かな?
35 刀 銘 表 濱部眠龍子壽實/裏 文政元年五月日 江戸時代 県重宝
オススメ
はまべみんりゅうしとしざね と読みます。
丁子が束になって拳のように見える「拳形丁子」が特徴。(私は餃子のヒダやワンタンを思い出します)ぴょこぴょこしていてかわいい。匂口がきれいに締まってることで、絵画的な刃文のラインがより強調されているように感じました。肌も詰んでいてきれいでした。
38 脇差 銘相模守来國吉
江戸時代 弘前市指定有形文化財
名前に”来”とありますが来派ではなく江戸法城寺派の刀工のようです。
砂流しがたくさん。長い線は湯走り?
ハバキ付近に散らされた沸の粒が天の河みたいできれい。
39 刀 銘 奥州弘前住助宗
江戸時代 弘前市指定有形文化財
弘前藩のお抱え刀工・助宗の作。
腰寄りの中反りで姿とても良い。小鋒で帽子は丸く返る。匂口締まった細直刃。肌詰んでいて板目僅かに見える。
以上になります!
キャプションはこんなかんじ
刀工の紹介と刀の特徴が簡潔に書かれています。「乱れ映り」や「匂口締まる」などの刀剣用語を別の言い方に置き換えているのが親切。文字がおおきいのも読みやすくて好き。
以前に八戸市博物館で刀剣展示があったときもそうだったのですが、作刀時代を載せないのはなぜ?刀でなくても、時代が書いてあればより古さや歴史を感じやすいので、個人的にはあった方がうれしいかな。という感想です。
刀の見易さは照明は○、展示角度はかなり屈伸運動が必要な具合。
それからダメ出しのようになって書くのにやや苦しいのですが書いておきたい…展覧会チラシの画像サイズ。小さい!
ホームページに画像がありますが、サムネイルかと思ったら拡大できなかったでござる。
これだとチラシに何が書いてあるのかわからなく、会期くらいしか情報が読み取れないのでもったいないです。以前も画像を大きくできるようにしてほしいとメールしたことがあるので、もう一度送ってみようかしら。
展示品リストは会期途中から公開されたようです。展示品リストがあるのは本当にありがたいです。こんな刀があるんだ行ってみてみたいな、というキッカケになります。
そうえいば「なんで友成が青森にあるの?」についてですが、なんで=伝来の意味だとしたら、藩主が太閤秀吉から賜ったから。
なんで=なんで青森みたいな田舎に、という意味でしたら前述の通り藩があって殿様がいたから、でしょうか。現在東京国立博物館に所蔵されている城和泉正宗も、弘前藩主の津軽家が所持していた時期があるので津軽正宗という号があります。大都市や有力大名が治めていた地域に比べたら著名な作品は遺ってはいないですが、無いわけではないんですよ。
そのほか
お昼ご飯は歴史館から徒歩ですぐの「古民家カフェ山の子」さんでいただきました。
山菜そばとハーブティー。
山菜の爽やかな苦味と、ハーブティーの甘みでだいぶリラックスできました。
アクセスについて
アクセスがちょっと厄介でして、公共交通機関を利用する場合GoogleマップやYaoo!路線情報のトータルナビがまるで役に立ちませんでした!。(2019年8月現在)
ホームページに交通アクセスについて書かれたページがありますが、以下は補足情報。
公共交通機関を利用される方は以下の手順で検索してみてください。
飛行機の場合は最寄り空港→青森空港→弘前駅までのルートをまず検索、
新幹線の場合は最寄り駅→新青森→弘前駅までのルートを検索。
ここはGoogleマップやその他の地図アプリでOK
そこからはバスですが、公式に書いてあるあおもりナビというサイトはPCからでないとうまく見ることができません。スマホだとアプリをダウンロードする必要があります。
その他の検索手段はNAVITIME。
最寄りバス停である「高岡」と同名のバス停や地名がでてくるので、以下の方法で検索してみてください。
バスはおおよそ2時間に1本の間隔で運行しているようです。
ちなみに弘南バスのHPで時刻を確認しようとしても主要なバス停の時刻しか書いていないので、、、残念!
遠方から弘前観光もあわせていらっしゃるのであれば、弘前駅からレンタカーを借りるのが動きやすくてオススメです。
とまぁ若干マイナスな部分を書いてしまったので2017年のGWに弘前に遊びに行った写真を貼りまくって終わるぞーーーーーーと思ったのに、ちょうどその頃の写真をごっそり消失してしまったので残っているものを少しだけ。
岩木山神社と御朱印。
歴史館からも近い津軽の総鎮守。めずらしい逆さ狛犬がいます。
ほかにも弘前城や有形文化財の建物を利用したかわいらしいスターバックス、洋館など見所がたくさん。
あとアップルパイがすごいんです。弘前アップルパイガイドマップ11版によれば、現在は弘前市内で47種類のアップルパイが提供されているようです。さすがりんごの本場〜〜
大正浪漫喫茶室というお店で何種類かいただいたことがありますが、どれも美味しかったです。
最後に刀剣について総括。
毎月のように遠征を繰り返し全国の刀を見ていた時期は、所謂名刀・有名刀工の作品を多く見ていたせいか、地方刀工の作品を見るとなんとなく間延びしているような、緊張感に欠けるように感じていました。しかし今回は久しぶりに刀を見たせいなのか、そもそも良作ばかりだったのか
それとも刀を見る目が多少養われて良いところを発見できるようになったせいなのか…どの刀からも面白い・いいなと感じられる部分を見つけることができました。楽しかったです。
次回の遠征は九州の福岡。そこで展示される普段あまり目にすることのない九州や西日本の刀工の作を楽しみにしながら、高岡の森弘前藩歴史館で津軽藩の名刀たちを見てきた話を終わります。