みちのくの小京都にて思いがけず刀剣展示施設を訪れることができた話 青柳家

家族と紅葉を見にバス旅行に行った先。読者さんより教えていただいた秋田県の刀剣展示施設を訪れることができました。場所は仙北市角館(せんぼくしかくのだて)。「角館の武家屋敷」という名称を聞いたことがある方もいるかもしれません。今回訪れた青柳家はその武家屋敷のうちのひとつです。

秋田県指定史跡 青柳家

公式HP:http://www.samuraiworld.com/index.php
訪問日:2024年11月2日

写真が斜めになっているのは観光客を避けながらの撮影のため。近くの駐車場には近隣県の観光バスのほか、関東ナンバーの車もたくさん駐車していました。

青柳家は秋田藩主の佐竹氏や、角館を治めていた蘆名氏に仕え、後にこのあたりの地主になった方のおうち。
HPから施設マップを見ていただきたいのですが、敷地はかなり広くていくつかの建物があります。
これから紹介していく刀たちのほか、写真や古道具、石、レコードや蓄音機などの様々なコレクション展示されていました。
施設の広さと展示品の多さ、加えてバスツアー内の限られた自由時間。じっくり見ることができなかったのと、カメラではなくスマホ撮影のため写真があまり鮮明ではありません。雰囲気だけでも伝わってくれ~

武器蔵へ

おなじみの重さを体験するやつ。刀のほかに槍もありました。

刀剣展示は応接間のような部屋に数点程度を予想していましたが…まさかの武器武具のための専用部屋(蔵)がどーん。

部屋一面に鎧兜、火縄銃、槍、剣、陣羽織などが展示されています。

天井に近い壁にはたくさんの槍

キャプションはなく、刀工名が記されたプレートのみが添えてありました。ないのもあり。わかる範囲の展示刀剣と、知らない刀工が多かったので調べてみた内容を以下に記します。

刀  銘宇多国光

鎌倉時代末期に大和国宇陀郡から越中国に移住し宇多派の祖になった刀工。宇多派という名前は覚えているものの、刀をほとんど見たことがないので特徴を知らず。しかし北國物ならば、鉄の色は黒いのかしら?則重みたいに肌立っているのかしら?というところは気にして見ました。むむむ…全体に金筋砂流し、地景がしっかり入っていてるのが印象的でした。

太刀 銘羽後本荘住 国慶 秋田刀工 現代(昭和)

秋田県を代表する現代刀工。相伝備前の作風。戦前から作刀し、戦中にたくさん作品を残した昭和の刀工。軍刀の製作も。柴田果刀匠や栗原昭秀刀匠に師事したとのこと。

刀  銘出羽(写真がブレていてわからず。おそらく出羽秋田住)正忠 秋田刀工 江戸時代

佐竹北家のお抱鍛冶。角館で鍛刀した。水心子門下・正照の末裔 に師事したともいわれる。

刀  銘天野河内助藤原高真作 秋田県指定有形文化財

江戸末期~明治初期の秋田市の刀工。剣道場を開くほどの剣士だったが後に刀鍛冶となった。大慶直胤、藤原清人門徒。

短刀 銘出羽国忠秀 秋田刀工 江戸時代

江戸時代後期の刀工。水心子正秀門徒。

短刀 銘秋田臣正直 江戸時代

不明

脇指 銘土肥真了 江戸時代

肥前国出身。井上新改門徒。

刀  無銘(越前汎隆) 江戸時代

ひろたかと読みます。越前下坂の刀工。伯耆守藤原汎隆、越前住伯耆守汎隆、伯耆大掾汎隆と銘を切る。

太刀 銘助光

吉岡一文字(だっけ長船だっけ?)か、もしくは大和千住院?どの助光だ…塗りつぶされているけれど「鎌倉時代」とプレートに書かれていた形跡がありました。うーん、この時代辺りの作品なら「お!」と目を引かれてちゃんと写真を撮っていそうな気もするのですが…ワカラン

刀  銘陸奥守藤原兼信 江戸時代

美濃の刀工。兼元に似た三本杉刃文を焼くことで有名。初代兼信は応安頃(1358~)、志津三郎兼氏の子もしくは門人と伝わる。後代は関に移り同銘が数代続いている。新刀期、同名の数人が越前、摂津、加賀へと移住する。この刀を打った兼信を含む、美濃に残った一門が本流となって元禄まで続いたとのこと。

刀  銘備前長船春光

末備前の刀工の一人で、同名の刀工が複数いる。

刀  銘筑州住左信光 (刀工名のプレートなし。銘から読み取ったもの)

明治の刀工。福岡石堂の守次系是利の門徒。

ほか6振

ものによっては若干錆が浮いていたりもしますが、ものすごく傷んでいるというわけでもなく。照明や展示角度も刀剣観賞用ではないですが、歴史のある場所に秋田県の刀工や著名な現代刀匠の作が保管・展示されていることに、ここで見る価値を感じました。

解体新書記念館

解体新書の挿絵を書いた小田野直武は秋田藩のお抱え絵師。
あの教科書で見た解体新書?秋田出身の人が描いていたの?!
平賀源内に才能を見出され絵の技法を学び、杉田玄白が解体新書の挿絵師を探しているということで直武が紹介されたとのことです。

解体新書 跋文(ばつぶん。後書きのこと)

これがまさにアーティストの葛藤という感じでグッときました!簡単に現代語訳を書いてみます。
「友人の杉田玄白が訳した解体新書が完成した。図の模写を頼まれたが、この見事な洋画を自分のような才能のない者がやってもとても追いつけるものではない。とはいえ断れば友人が困る(怨みを買う)だろう。それよりは恥を長い歳月流した方がいい。世の君子よ、どうかこのことを思いやってくれたら幸いだ。」

秋田から江戸に出て間もない頃に頼まれた仕事。後世に残る偉業となったことを当人は知ることもないんですよね…

そういえば過去に解体新書関連の展示品を東北のどこかの博物館で見たな?と思ったら岩手の一関市博物館でした。杉田玄白の弟子で解体新書の改訂版「重訂解体新書」の作者が一関出身の大槻玄沢。刀を見に行った先で他の作品の繋がりを見つけることってたまにある。

ほかには

レコードコレクションは屋根裏のような場所にあり、武器蔵とは全く異なるテイストの展示でおしゃれでした。大皿も石もお人形もとにかく物量がたくさん…ゆっくり見学したかったです。

またひとつ気になっていた施設に行くことが叶ったぞ

角館は秋田県の中央あたりにあり、八戸からだと車で二時間半〜三時間ほどかかります。用事がなければなかなか行かない地域なので、青柳家に訪れるのはもっと先になることと思っていました…行けてよかった!

東京方面からのアクセスは秋田新幹線こまちで乗り換えなしで角館駅まで行けます。
角館駅で下車し徒歩20分程度で武家屋敷通り及び青柳家に到着します。
こまち以外の新幹線を取ってしまった場合は、盛岡駅で秋田新幹線こまちに乗り換えて角館駅へ行くことができます。

今年は東京の日枝神社、京都の本能寺、山形の最上義光歴史館と複数の行ってみたかった施設に足を運ぶことが叶いました。一つずつチェックマークが付く施設が増えていって嬉しいです。
来年はどこに行けるかな? おわり


▼本命の紅葉は抱返り渓谷にて。

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