虎徹の刀を見に彦根城へ行った話 「特別展 長曽祢虎徹―新刀随一の匠―」

■日時 2018年10月31日
■場所 彦根城博物館(滋賀)
■入館料 1,200円(彦根城・玄宮園・博物館のセット券)

「そうだ、滋賀行こう」
まだ訪れたことのなかった滋賀県。琵琶湖が見てみたいし、彦根城も見たいし、京都から近いし。
そして虎徹の展示もあるし。
お城に併設されている博物館は照明がイマイチなことがままあるので、お城見学ついでに虎徹が見れたらいいな〜くらいの軽い気持ちで行ってみたらば、内容の濃いとっても素敵な展示でした!ひこにゃんかわいいよ。

特別展 長曽祢虎徹―新刀随一の匠―

彦根城博物館で開催中の展示です。日本人なら一度は名前を聞いたことがある著名な刀工・長曽祢虎徹と、その関連作品が45品展示してあります。うち刀剣は29振りというなかなかのボリューム。
彦根城博物館所蔵のものはもちろん、個人、東京国立博物館、刀剣博物館、京都国立博物館、福井県立歴史博物館、森記念秋水美術館、香川県立ミュージアムなど全国各地の名だたる施設から集まった虎徹の刀剣たちです。
「新刀」「試し斬り」といった虎徹を語る上で外せないワードに関する品や、甲冑師から刀工に転向した頃の初期の作品から円熟した技術の晩年の作品、銘の変遷がわかるパネルなどバラエティに富んでおり、虎徹という刀工についてよく知れる展示内容になっています。
というのが刀剣を勉強中の私の感想。
刀剣の見方や初歩的な用語の解説は無いので、もしかしたら初心者には難しいかもしれません。
しっかりした展示構成なので、刀剣を勉強中の方にはとってもオススメ。
とうらぶファンでちょいちょい刀を見に行っていて、なんとな〜くわかるかな〜という層にも興味深い展示だと思います。
黒い展示台に黒背景。照明はよく当たっていますが結構腰を屈める体制になります。背の高い方は邪魔にならない範囲で床に膝をついて見ると見やすいです。写真撮影不可。

「新刀」とその代表刀工たち

江戸時代の年号を並べても時代関係がよくわからないと思うので、この記事はカッコ書き多用で補足を入れてお送りします。

一章は「新刀の幕開け」と題し、まず最初に「新刀便疑しんとうべんぎ」という刀剣解説書が展示されています。
八代将軍吉宗のあたりの時代より、慶長期(桃山時代末)以降に作刀された刀剣のことを古刀に対して新刃や新身(どちらもあらみと読む)と呼び習わす動きがありました。
1777年(十代将軍家治の時代、解体新書が出版されたあたり)、新刀便疑により新刀という名称と「慶長元年以降の刀剣」という定義が確立されます。重要な本です。虎徹の作品はこの「新刀」という区分に属します。
新刀とはなんぞやがわかった次に展示されているのは、虎徹と並ぶ新刀の代表的刀工の作品。
堀川国広、越前康継、野田繁慶、津田助広、井上真改の作品が一振りずつ展示されています。
これらの刀工をちょっと整理すると国広・康継・繁慶は虎徹より少し時代が上の刀工で、安土桃山〜江戸初期に活躍した刀工になります。助広と真改は虎徹と同時代の刀工ですね。
斬れ味重視、実用主義の江戸新刀に対し、見た目優先・華やかさが特徴の大阪新刀
「大阪新刀の三傑」である津田助広は、濤乱刃(とうらんば)と呼ばれる大きい波のような華やかな刃文を創作します。ここに展示されているのはその過渡期の作品ですが、断片を垣間見ることができます。これを意識しながら江戸新刀の代表刀工である虎徹の作品を見ると良いでしょう。

甲冑師虎徹から刀工虎徹へ

二章冒頭では虎徹の師匠であると有力視されている和泉守兼重の作、兼重の弟子の作、虎徹の初期作などが展示されており、作風から刀工たちの繋がりが読み取れます。
ここには貴重な虎徹作の小田籠手も展示。肘から手の甲までを覆う武具です。
甲冑の制作をマスターした上での刀工転向。器用ですよね。また甲冑のことをよく知る虎徹だからこそ、斬れる刀を生み出すことにも繋がったのかなと思いました。

バツグンの斬れ味 試し斬りと截断銘

虎徹の銘を見ると金色の文字で「寛文○○年○月貳ツ胴截断 山野加右衛門永久(花押)」のような長い銘が入っていることがよくあります。これは截断銘さいだんめいといって、打ち首になった罪人で試し斬りをし、どれくらい斬れましたよ〜と斬れ味を証明する銘です。
山野加右衛門永久と息子の勘十郎久英の名が虎徹の銘には多く見られます。貳ツ胴は二つ重ねた胴体のこと。現存する虎徹の作品中最高記録は参考作品の四ツ胴。人間の胴体四つを一度に截断してしまうなんて、恐ろしくよく斬れますね!
展示品の「山田浅右衛門試斬絵図」では、罪人のどこをどのように斬るかが示されています。
勘十郎久秀の元で学んだ初代山田浅右衛門が山田流という試し斬りの流派を興し、幕府の元で刀剣の試し斬りの役を勤めることになります。代々山田浅右衛門を名乗り、死刑執行人としても有名ですね。

虎徹の銘の変遷

茎(なかご)に刻まれるサイン・銘。
虎徹は約25年の活動期間の間に、虎徹(ハネトラ)・乕徹(ハコトラ)に代表される10種類以上の特徴の異なる銘を残します。これにより、いつ頃の作品かを判断することができます。
ここでは展示刀剣を例に挙げ、9つの異なる銘字を紹介していました。一つ一つ写真つきなので非常にわかりやすかったです。

瓢箪刃と数珠刃

虎徹の刀剣で特徴的な刃文が瓢箪刃(ひょうたんば)・数珠刃(じゅずば)と呼ばれる二つの刃文です。
瓢箪刃は初期の作品でよく見られ、大小二つの互の目が一定の間隔で並んでいて、半分に割った瓢箪のように見えます。個人的には妊婦を横から見た姿にも感じます。乳房とお腹の並び。
数珠刃は後期の作品で見られます。これがちょっと難しくて、互の目のように見えますがモコモコの谷の部分=足が匂がかっていてるのがポイントです。これを「煙り込むような」と表現すると習いました。単純に数珠が連なっているような互の目では数珠刃とは呼べないようです。
足がモヤモヤしているので、モコモコの頭の部分があまり目立たないようにも思います。
瓢箪刃も数珠刃も一見すると互の目に見えるのが難しいところ。私は大小で並んでいたら瓢箪刃、足が匂がかっていたら数珠刃かな?という風に見ています。

瓢箪刃・数珠刃
ごめんさい刃取りは描いていません。絵にするとこんな感じですかね。
数珠刃 アップ

数珠刃の足アップ…なかなかうまく描けない…匂を表したいのになんか沸っぽい…けどこんな感じで足がモヤっとしています。

感想

気になった作品をいくつか。

25.短刀 銘長曽祢興里作 江戸時代前期 佐野美術館蔵

「地刃とも沸がしっかりとついて冴え冴えと明るい鉄。余計な肉を付けず、鋒もスマートな形状で、全体にしまった印象を受ける。」
このようなキャプションが書いてありました。これは鉄の明るい暗いがなんとなくでしかわかっていない私でもわかるくらいに鉄の明るさを感じました。彫物もなく刃文も小湾れでシンプルですが、さりげない湯走り?が良いアクセントになっています。見た目もすっきり、ゴツくなくて好みでした。

26.脇差 銘(表)長曽祢興里入道乕徹 (裏)寛文十年九月吉日 寛文十年(1670) 個人蔵

均一で沸のみっしり具合を感じる肌です。
キャプションには「湾れに数珠刃を交え、刃先へ伸びる足が深く入っている」とありましたが…
足どこ?数珠刃??さっぱりわからん!
匂口は数珠刃っぽさを感じましたが、モコモコも見つけられず湾れに見えました。難しい!

30.刀 銘長曽祢興里入道乕徹 江戸時代前期 個人蔵

これは数珠刃だということがわかる作品でした。足にかかる匂がまさに「煙込むような」の表現そのままというようにモヤ〜っとしています。
「ざんぐりした肌」という表現がここでも何度か出てきましたが、やはりわからず。詰んだ肌と比べると、ちょっぴり間延びしたような、水分の少なさを感じるような気がする…?
これ以上は倍率の高い単眼鏡を使うか、手に取って鑑賞しないと理解できないのかしら。しょんぼり。

精巧な彫物を施している作品もありますが、ここで展示されていたのは彫りがあったとしても全体的にシンプルなものでした。それを踏まえたとしても、冒頭に挙げた津田助広の作品と比較すると飾り気のなさを感じます。
虎鉄の作品は初期の作なのに肌が良いなと感じる作品もあれば、晩年の作なのになんだかモソモソパサパサしているように見える作品もあると感じました。キャプションでも「ムラがある」とのこと。
私は鉄の性質・性能についてはまだ語れるような知識がないのでここではそれについて触れませんが、展示を通して虎鉄はよく斬れること、そのために鉄(かね)にこだわっていたということを感じました。
他の刀工に比べて刀鍛冶としてのスタートが遅いですもんね。
「斬れる刀」というのは実用主義の江戸では売りなるので、作風のムラもそれ追求するためにあれこれ実験してみた結果なのかなと。たくさん試刀させたのも、自分の刀はよく斬れるぞ!という宣伝に繋がっているのかな、と想像しました。

講演もあるよ!

会期中に2回講演があります。
1回目は11月4日(日)
講師は彦根城博物館学芸員の古幡昇子氏
2回目は11月10日(土)
講師は京都国立博物館研究員の末兼俊彦氏
いずれも14時〜15時30分まで、彦根城博物館 講堂での開催です。
詳細代は公式ホームページにて。
末兼さんのお話の面白さは皆さんご存知の通り。この素晴らしい展示を構成された古幡学芸員のお話もとっても気になります!

図録もあるよ!

フルカラーで展示のキャプションまですべて収録されている図録が1,000円で販売されています。
郵送OKとのことなので展示を見にいけないという方はコチラからどうぞ。
上で紹介した銘の変遷のパネルもまるっと載っています。

写真を撮る前に図録を自宅に郵送してしまいました……スミマセン。あとで追加します。↓以下後日追加した図録写真2点(本文を一部ぼかしてあります)

銘の変遷のパネルはこんなかんじでした
虎徹作の籠手も載っています

おわりに

彦根城の写真やごはんの写真など

彦根城 城壁
彦根城のお堀
彦根城 天守閣
国宝の天守閣。中の階段がめちゃくちゃ急でした!
彦根城 石垣
石垣がすごい。山のよう。広大。
琵琶湖

彦根城からの琵琶湖の眺め。
これがマザーレイク…!この日は曇天でしたが、雲間から射す光と山影の風景が美しかったです。

彦根城 鎧
井伊の赤揃え。ひこにゃんがかぶっている兜ですね。
玄宮園

景勝地・玄宮園。のんびりお散歩。紅葉で晴れていたらきっともっと素敵だっただろうな。

お昼は彦根城すぐそばの定食屋「すぎもと」さんで。
本当においしかったんですよ。ジューシーお肉!!!
他のメニューもリーズナブルで、お店の中は地元の方たちで賑わっていました。
また行きたいです。
彦根城へは京都駅から片道一時間弱。
京都遠征される方は彦根まで足を伸ばし、ぜひこちらの展示も楽しんでください! おわり


特別展 長曽祢虎徹 ―新刀随一の匠―
2018年10月26日〜11月25日 会期無休
公式HP:http://hikone-castle-museum.jp/topics/6251.html

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