この記事はJR東日本のキュンパスを使い、以下の6つの施設を見てきた話の5番目です。
- 埼玉県立歴史と民俗の博物館(埼玉県さいたま市)
- 日枝神社宝物館(東京都千代田区)
- 駿府大御所刀工館(静岡県富士市)
- 三嶋大社宝物館(静岡県三島市)
- 佐野美術館(静岡県三島市) ←イマココ
- 東京国立博物館(東京都台東区)
▼前回のお話
この記事はJR東日本のキュンパスを使い、以下の6つの施設を見てきた話の4番目です。 埼玉県立歴史と民俗の博物館(埼玉県さいたま市) 日枝神社宝物館(東京都千代田区) 駿府大御所刀工館(静岡県富士市) 三嶋大社[…]

グーグルマップの案内に従って三嶋大社から徒歩で佐野美術館へ。お庭のある側から入りました。

もう花が咲いている。春じゃ〜

佐野美術館入口。「戦場の様に旗がはためいている」とは聞いておりましたが、その通りの光景。
- 1 展覧会概要
- 1.1 全体の感想
- 1.2 展示構成
- 1.3 刀剣ごとの感想
- 1.3.1 1. 太刀 銘包平 平安時代末期 12世紀 重要美術品附金沃懸地葵紋散鞘糸巻太刀拵 江戸時代 17-19世紀 重要美術品 個人蔵
- 1.3.2 4. 太刀 無銘一文字 鎌倉時代中期 13世紀 個人蔵附 金霰梨子地樋家紋鞘細太刀拵 江戸時代末期-明治時代 19-20世紀
- 1.3.3 7. 短刀 銘油小路忠家造/延文三年仲春ニ 南北朝時代 1358年 矢部コレクション附 梅花皮包鞘小サ刀拵 江戸時代 18-19世紀
- 1.3.4 9. 短刀 銘国光 鎌倉時代中期 13世紀 重要文化財 佐野美術館蔵附 金梨子地葵紋散鞘合口拵 江戸時代 18-19世紀
- 1.3.5 13. 短刀 銘左/筑州□(住) 南北朝時代 14世紀 個人蔵附 丸三葉柏紋合口拵 江戸時代-明治時代 19-20世紀
- 1.3.6 18. 太刀 了戒 鎌倉時代後期 13世紀 個人蔵
- 1.3.7 20. 朱銘 義弘/本阿(花押) 名物松井江 鎌倉時代末期 14世紀 重要文化財 佐野美術館蔵
- 1.3.8 24. 大笹穂槍 銘藤原正真 号蜻蛉切 室町時代 16世紀 県指定文化財 矢部コレクション
- 2 図録
- 3 おわりに
展覧会概要
展覧会名:名刀ズラリ
会期:2025年1月7日~2月16日
会場:佐野美術館(静岡)
展覧会案内ページ:https://sanobi.or.jp/exhibition/japanese-sword_2024/
出品目録:https://sanobi.or.jp/wp/wp-content/uploads/2025/01/meitozurari2024_shuppinmokuroku.pdf
入館料:1,300円(前売り券1,000円)
備考:刀剣乱舞コラボあり
訪問日:2025年2月14日

「名刀ズラリ」という展覧会名。文字をそのまま受け取ると名刀がたくさん並ぶ刀剣展だろうと想像します。HPの説明を読んでみると、様々な理由でなかなかお目にかかる機会のなかった名刀が展示されそうだということがわかりました。
「名刀」と呼ばれるものは、必ずしもしょっちゅう公開されているわけでもないし、国宝や重要文化財の指定を受けたものだけが名刀ではないことを、刀剣ファンならばよく知っていることと思います。
今回の展覧会ではそんな「秘蔵の名刀」がズラリと並ぶということ。行かない理由はないですね。
そして実は、HPには掲載されていないもう一つのテーマがあります。それは佐野美術館の理事長を務められた故・渡邉妙子先生を偲ぶというもの。先生が佐野美術館に学芸員として就任され、58年もの間刀剣研究に尽力されたこと。先生の功績を讃えるべく、コレクターの方々より更に多くの秘蔵愛刀が集まったそうです。
刀剣ファンとして、単にレア刀剣を見る機会ではないことを胸にしまって美術館へ向かいました。
全体の感想
出品目録を参照すると作品は全部で84展。うち目録番号1~49が刀剣(一部拵えが付属するのも含む)で、50~84が刀装具と点数だけでも大変に見ごたえのある展覧会だということが伺えます。刀剣も刀装具も個人蔵の割合が高いですね。
会場内を見渡すと、刀剣以外のものがよく目に留まりました。
「見せたいもの、刀剣だけじゃないのかな?」
拵えや刀装具たちがすごく華やかなんです。バリエーション豊か。一目見てかわいい、きれい、豪華、なんかすごそうとわかる作品があって、刀が難しいと感じる層も楽しめそうです。
刀剣は刃が明るいものが多いと感じました。鉄の色ではなく、刀の内側から発光するような輝き。照明や研ぎの影響も考えられるし、自分の思う「刃の明るさ」にあまり自信がないのですが……名刀と呼ばれるものにそれを感じることが多いので、展示刀剣を見ながらムムムすごいぞと唸ってしまいました。
展示物とガラスの距離が近いとか、角度が見やすいのはもうお馴染みですね。キャプションの文字が大きいのも助かります。
展示構成
- 刀剣と拵え
1~16番。すべて拵えがつく刀剣たちで構成されています。火車切はここ。 - 憧れの古刀
17~25番。久国、正宗、長光の国宝薙刀など。蜻蛉切と松井江はここ。 - 短刀の美
26~38番。このうち三作は子供や低身長の方向けとして、展示位置を低くしたコーナーで展示されていました。 - 物語る刀
39~49番。新刀・新々刀が多め。重美の水心子も。 - 刀装具の魅力
鐔、目貫、小柄など。
刀剣ごとの感想
1. 太刀 銘包平 平安時代末期 12世紀 重要美術品
附金沃懸地葵紋散鞘糸巻太刀拵 江戸時代 17-19世紀 重要美術品 個人蔵
これは姿がよいですね!目録で包平の文字を見ていてなんとなく豪壮なものを想像していたのですが、ちょっと違いました。これは身幅尋常というのでしょうか。細身ではないです。腰反り高くやや小さめの中鋒。スッキリとして上品な雰囲気が印象的。詰んだ潤いのある肌。腰付近に特徴的な沸の絡みががありました。彫り物は棒樋を丸留め。刃の明るさもあいまって、展示室の一番はじめに並ぶのにふさわしい”顔”を感じました。


付属の拵はこんな感じで全体が金色。葵紋は等間隔っぽく配置されています。鐔の形は卍紋のと同じ。
4. 太刀 無銘一文字 鎌倉時代中期 13世紀 個人蔵
附 金霰梨子地樋家紋鞘細太刀拵 江戸時代末期-明治時代 19-20世紀
焼頭が揃い気味な丁子が主体の刃文。一部丁子の頭が茎側に傾く「逆丁子」になっています。
この作品は刀よりも拵えに目を奪われました。鞘に螺鈿で家紋が入っていてとてもかわいいのです。
拵名の「樋家紋鞘」がその部分でしょうか。樋ね…なるほど。刀の棒樋と同じく、鞘を縦断するように紫檀材がはめ込まれ、そこに螺鈿の梅鉢と四つ目結紋が交互に埋め込まれています。


施されている家紋と一番近いものをフリー素材で探してみました。
この拵えは尾張藩付家老竹腰家伝来と伝わり、これらの家紋も合致するとのこと。
金具の黒い部分は魚々子で埋め尽くされ、更に金色で家紋を散りばめた手の込んだ拵えです。
「個人蔵のどえらい刀」は見知っていたのですが、「個人蔵のどえらい拵」というのはあまり馴染みがなかったので驚きました。刀と違って異素材を組み合わせたものです。どうやって保管しているのだろう?
7. 短刀 銘油小路忠家造/延文三年仲春ニ 南北朝時代 1358年 矢部コレクション
附 梅花皮包鞘小サ刀拵 江戸時代 18-19世紀
油小路ってあまり見ない名前だけど、でも知ってる。おそらく前にも見ている刀剣かな…?
この刀は彫り物が気になりました。展示されている面は、茎側が半分欠けた樋?薙刀樋みたいな?(図録では刀樋とのこと)、素剣、添樋の三つが彫られてます。
鋒から茎にかけて三つというのはよく見ますが、棟から刃側にかけて縦に長い彫り物が三段並んでいるのはあまり見たことが無い気がします。二つの彫りに素剣が挟まれているのも面白いと感じました。

江雪左文字のこしらえと似ているなーと思ったら、両方とも「鮫肌に漆をかけて研ぎ出す」手法で作られていました。展示品の方がもうちょっと黒の面積が大きいです。梅花皮で「かいらぎ」と読むのね。
沼津市の愛刀家・矢部利雄氏のコレクション。
今回は2.太刀 銘景則、24.大笹穂槍 銘藤原正真作(号蜻蛉切)ら刀剣4振り、刀装具3点を出品。
9. 短刀 銘国光 鎌倉時代中期 13世紀 重要文化財 佐野美術館蔵
附 金梨子地葵紋散鞘合口拵 江戸時代 18-19世紀
新藤五国光の短刀。あー寿命が延びる。好き。
冠落造で少し内反りでしょうか。梵字と素剣が彫られていますが、大分浅くなっています。小板目肌よく詰み、鏡のようにピカッとした肌をしていました。

鐔がなくて、柄が粒々していて、鞘が金ピカなとこは似てるかな。実物は鞘がもっとザラザラしたような質感。
13. 短刀 銘左/筑州□(住) 南北朝時代 14世紀 個人蔵
附 丸三葉柏紋合口拵 江戸時代-明治時代 19-20世紀
これも拵がよかったです。柄も鞘も下の写真のように刻みの入った黒色で、これにガンメタ(メタリックな黒灰色)の金具を配して、カッコ良い仕上がりでした。全体的に黒なのに全然地味じゃないの。「黒檀刻鞘に銀石目地」というのね。

18. 太刀 了戒 鎌倉時代後期 13世紀 個人蔵
これは刃縁の沸が会場内で一番好きな作品でした。刃文はちょっとモヤッとしていて「うるみごころ」というやつですが、そこをキラッキラッギラギラと走る沸がね。ガラスケースの真前に立つ前からそれが見えてすごい太刀だなと。映りもよく見えました。
20. 朱銘 義弘/本阿(花押) 名物松井江 鎌倉時代末期 14世紀 重要文化財 佐野美術館蔵
お初の松井江。郷義弘の作品は好みだったり全然そうでなかったり、自分の中でよく整理されていません…でもこの松井江は好き。 おそらく姿が好みだから?(ちなみに好きな郷は五月雨郷と芦葉江)。特にクセがなく、相州伝っぽいなーと思える姿です。
腰あたりが少し乱れた広直刃(図録では中直刃とのこと)。焼き幅が広いのと匂口の明るさが印象的でした。
24. 大笹穂槍 銘藤原正真 号蜻蛉切 室町時代 16世紀 県指定文化財 矢部コレクション
刀剣を見に行き始めの頃から蜻蛉切を見てきたのですが、様々な刀や槍を見てきてようやくこの槍の美しさを理解しました。梵字が4つに三鈷柄剣、それと蓮台。合計六つも丁寧に彫り物が施されていて、なんて手の込んだ槍なの…!その上切れ味は名前が示しているわけですよね。
本多忠勝という有名な武将が所持していたにしろ、このような槍が綺麗な状態で残っていることに改めて驚きました。
一言感想
- 14. 短刀 銘助宗 号おそらく 室町時代 16世紀 附黒漆小サ刀拵 個人蔵
刀身の半分くらいが鋒の「おそらく造」。姿の異風さもおもしろいのですが、刃も明るく砂流しや沸の絡みなど見応えのある刀でした。 - 25. 刀 銘備前国住長船二郎左衛門尉 藤原勝光 朝嵐 松下昌俊所持 永正元年八月吉日 室町時代1504年 重要美術品 個人蔵
華やかな丁子刃。足・葉しきりで会場内で一番刃文が華やかだったと思います。 - 31. 短刀 無銘行光 鎌倉時代末期 14世紀 個人蔵
地沸のミシミシ感。ジャリジャリしそう。 - 32. 短刀 無銘正宗 号多賀正宗 鎌倉時代末期 14世紀 個人蔵
匂口の沸での表現。自由だなー - 33. 短刀 銘長船長光/永仁三年十月(以下切) 鎌倉時代後期1295年 佐野美術館蔵
平地にも焼いているの?映り?刃側からと棟側からとで刃文が向かい合うように見えておもしろい - 66. 波濤図大小鐔 大小とも)銘大森英満(花押) 江戸時代中期-後期 18-19世紀 矢部コレクション
黒一色の鐔。波のうねりに迫力があり、アクセントとして水しぶきのみを金色で表現してなんかオシャレ。同じような理由で70.花鳥図大小鐔や71.萩鹿図大小鐔も好みでした。
図録

青いの。すでに指紋が取れない笑
しばらく佐野美術館に行けなかったので、他の図録とあわせて通販で購入。
最近は遠征時の荷物を減らすため、現地に行くことが確定していても通販or可能であれば現地にて発送をお願いすることが増えました。送料はかかるけれど荷物が増えないのがとってもラク!
今回は出発前日に通販申込をしたけれど、会期最初のほうに取り寄せて予習をしておけばよかったな~と遠征後若干の反省。


最後にパネルと御伴写真も忘れずに。
スタンプラリーは…?
完全にリサーチ不足でした。いつも刀に忙しくて泣く泣くスルーしていたので、今回もきっともそうだろうな〜時間ないな〜と思ったのですが、スタンプ設置場所5カ所のうち3カ所は歩いたり通ったりしているじゃないですか!参加できたじゃん!!
三島に来るといつもせかせかしているので、いつかゆっくりのんびり過ごしたいです。
おわりに
いつもならば、刀剣そのものを鑑賞することと、展覧会のテーマをより強く意識して全体を見ることの最低二つはするのですが、この遠征シリーズはまずとにかく訪問施設を詰め込んでいるため時間的に難しかったです。本来ならば一日がかりで見たかった展覧会でした;_;
何をしたい展覧会なのかが伝わると、展示物の見え方が違いますよね。
佐野美術館に向かう道中も、これを書いている今も、もう渡邉先生にお会いすることができないということを想ってしまいます。美術館を訪れた回数だって少ないし、直接ご指導いただいたこともたった一度しかないのに。自覚している以上に展覧会や著書を通して、何かを受け取っているのかな。
長らくの先生の活動のうち、最後に交わることのできた世代という幸運を噛みしめ、この話をおわります。次は遠征最後のトーハク!
2025年春のキュンパス遠征編
今年もJR東日本でキュンパスが販売されていたので、そちらを使って東京と静岡の刀剣展覧会を見てきました。キュンパスについての詳細はこちら▶https://www.jreast.co.jp/heijitsutabi/kyunpass 連[…]
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