江雪左文字と明石国行を見に行った話 「阿部家ゆかりの日本刀 小松コレクションと五箇伝の名刀」

展覧会概要

展覧会名:阿部家ゆかりの日本刀 -小松コレクションと五箇伝の名刀-
会期:2016年11月12日~12月18日
会場:ふくやま美術館(広島)
展覧会案内ページ:https://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/soshiki/fukuyama-museum/78174.html

展示品リスト:https://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/uploaded/attachment/74674.pdf
入館料:1,000円
備考:写真撮影NG、刀剣乱舞コラボあり

訪問日:2016年11月26日
交通費:11,700円

出品目録一覧を見た瞬間に思った
「ふくやまさん本気出してきた…!」
ふくやま美術館さんには去年の同じくらいの時期に江雪左文字を見に訪れていました。⇒去年の記事
今年は朱判貞宗含めて4口くらいの展示かな、なんて思っていたら名刀ズラリの32口。
そして刀剣乱舞との公式コラボ。
スケジュール押さえておいてよかった!とホッとしたのも最初のうち。
おそろしいかなコラボパワー。展示初日の来場者は1,300人。
昨年とまったく様子の違う現地の様子に驚きました。

11月26日、開館15分前の9時15分に到着。こんなに並んでいるのは土曜だからなのか、それともわずか6日で完売してしまった図録の再販日だからなのか。

オープン後、まずは描き下ろしイラストと同じ絵柄のクリアファイルと図録を購入。
展示室前には江雪さんと明石のパネル。

気になる刀がたくさんあるのでドキドキ…写真を撮り終えたら早速展示室へ!

展示品

山城

  • 1. 太刀 銘久国 鎌倉・13世紀 国宝
  • 2. 太刀 銘国安 鎌倉・13世紀 重美
  • 3. 太刀 銘国清 鎌倉・13世紀 重文
  • 4. 短刀 銘吉光 鎌倉・13世紀 重文(名物 岩切長束藤四郎)
  • 5. 太刀 銘定利 鎌倉・13世紀 国宝
  • 6. 太刀 銘国行 鎌倉・13世紀 国宝(号 明石国行)
  • 7. 刀  無銘 伝来国光 鎌倉・13〜14世紀 重文
  • 8. 短刀 銘光包 鎌倉・13〜14世紀 重文

大和

  • 9. 太刀 銘包永 鎌倉・13世紀
  • 10. 太刀 銘大和則長作 鎌倉・13世紀
  • 11. 太刀 銘国行鎌倉・13世紀 国宝
  • 12. 短刀 銘貞興 鎌倉・14世紀

備前

  • 13. 太刀 銘正恒 平安・12世紀 国宝
    桐紋蒔糸巻太刀拵 江戸・17世紀
  • 14. 太刀 銘吉房 鎌倉・13世紀 国宝
    鑞色塗打刀拵 江戸・18世紀
  • 15. 太刀 銘則房 鎌倉・13世紀 国宝
  • 16. 太刀 銘国宗 鎌倉・13世紀 国宝
    黒鑞色塗打刀拵 江戸・17世紀
  • 17. 太刀 銘光忠 鎌倉・13世紀 重文
  • 18. 太刀 銘備前国長船住左近将監長光造/正応二年十月日
    鎌倉・正応2年(1289) 重文
  • 19. 太刀 銘備州長船住景光/延慶二年七月日
    鎌倉・延慶2年(1309) 重美
  • 20. 太刀 銘備州長船兼光/延文三年二月日
    南北朝・延文3年(1358) 重文
  • 21. 刀  無銘 伝長義 南北朝・14世紀
  • 22. 太刀 銘備前国長船盛景 南北朝・14世紀 重文

相州

  • 23. 短刀 銘国光 鎌倉・13〜14世紀 国宝(名物 会津新藤五)
  • 24. 刀  無銘正宗 鎌倉・14世紀 重文(名物 石田正宗)
  • 25. 脇指 朱銘貞宗/本阿(花押) 南北朝・14世紀(名物 朱判貞宗)
    変り塗鞘短刀拵 江戸・17世紀

美濃

  • 26. 短刀 銘兼氏 南北朝・14世紀 重文
  • 27. 刀 無銘志津 南北朝・14世紀 重文(名物 分部志津)
    重文附 黒漆塗打刀拵 江戸・16〜17世紀
  • 28. 短刀 銘兼友 南北朝・14世紀 重美
  • 29. 刀 銘和泉守藤原兼定 石破渋谷木工頭明秀
    (金象嵌)二胴切落/伊勢山田是作 永正十二二年二
  • 30. 刀 銘兼元 室町・16世紀

特別展示 筑前左文字

  • 31. 太刀 銘筑州住左 南北朝・14世紀 国宝(号 江雪左文字)
    国宝附 黒漆研出鮫打刀拵 桃山・16〜17世紀
  • 32. 短刀 銘左/筑州住 国宝(号 太閤左文字)
    葵唐草文金襴包刀拵 江戸・19世紀

今回も作品が多いので絞って書きます。

1. 太刀 銘久国 鎌倉時代・13世紀 国宝

※写真OKの展覧会にて撮影した写真です

展示室内はまず粟田口六兄弟の久国・国安・国清が三振り並びます。

過去にトーハクで見たことがあった太刀。腰反りで品の良い姿。刃長80cmと長大です。
詰んだ肌が比較的多かった展示品の中でも「なんだか他と違う」と思わせる、細かな地沸を纏った肌。前に見たときは単眼鏡も持っていなかったため単に肌が詰んでいるなーとしか思わなかったのですが、今回は梨地肌だということがよくわかりました。

2. 太刀 銘国安 鎌倉時代・13世紀 重要美術品

久国が長大なため比較して小振りに見えました。そしてやや細身。大板目の地鉄は肌立っていて、美しい肌目がとてもよく見えるのがよかったです。
自分のメモには「匂口ねむい」と書いていたのですがキャプションを見るに「匂口うるみごころ」とのこと。
匂口とは地と刃の境のことで、そこがクッキリしていると「匂口締まる」とか「匂口冴える」、ぼやけていると「匂口沈む」とか「ねむい」、「うるむ」と表現します。
「沈む」が一番ぼやけているということはわかるんだけど、ねむいとうるむの差がよくわからないな…勉強しよ。
それから佩き表の物打ちあたりに澄鉄のようなものがありました。これなんだろう?研ぎ減り?

6. 太刀 銘国行 鎌倉時代・13世紀 国宝(号 明石国行)

※写真OKの展覧会にて撮影した写真です

明石国行を見るのも2回目。来国行の作品は細身のものと身幅があるものがあって、明石は後者。ゲームのキャラクターが細身なのに、本体はなかなか堂々とした姿です。
腰反り…腰反りなのか。私にはこれが中反りに見えるんだけど、図録や他の資料を見るとだいたい腰反りと書いてあるんですよね。笠木反り、鳥居反り(どちらも中反りと同意)と記されている資料もあるのですが……どっちかな?
あと肌ですね。とある博物館では「潤いのある肌」と説明があったのに対し、こちらは「肌立った肌」。「潤いがある」と「肌立つ」は両立するのかしら??
それから蕨手丁子(丁子の頭がワラビのように曲がっている)もあるように見えるんだけど、図録の解説には載ってないんだよな…ないのかな……
刀本体がどうこうよりも、用語でつっかかったことが印象的でした。

14. 太刀 銘吉房 鎌倉時代・13世紀 国宝 鑞色塗打刀拵 江戸・18世紀
15. 太刀 銘則房 鎌倉時代・13世紀 国宝
16. 太刀 銘国宗 鎌倉時代・13世紀 国宝 黒鑞色塗打刀拵 江戸・17世紀

大房丁子、重華丁子、袋丁子。
三振りとも華やかな丁子刃を焼き、展示品の中でこの一角は一際派手でした。
吉房、則房は刃文からもわかるように一文字派の刀工。国宗は長船派。佐野美さんにあった国宗も激しい丁子刃で一文字風味だなと思いました。

23. 短刀 銘国光 鎌倉時代・13〜14世紀 国宝(名物 会津新藤五)

会津新藤五も二回目。新藤五国光の作品の美しさに慣れてきたのかしら?なんて生意気なことを思ったのは、初めて見たときほどの衝撃を味わえなかったからかもしれません。
絶妙な身幅とキリッと澄んだ細直刃。見飽きない美しさですね!

25. 脇指 朱銘貞宗/本阿(花押) 南北朝・14世紀(名物 朱判貞宗)

太い。太い。貞宗の作中で一番小さな太鼓鐘貞宗を見た後だったので、より身幅の広さ・寸の長さを感じました。まさしく南北朝の短刀の姿。※現代は脇指というくくりだけれど、作られた頃は短刀という分類でした。文化庁の文化遺産オンラインでも短刀と表記。
やや肌立ち地沸よくつきます。金筋砂流しがしきりにかかりにぎやか。この子かわいい。(贔屓目)

28. 短刀 銘兼友 南北朝時代・14世紀 重要美術品

見えるか見えないか、なんてもんじゃない。刃文の白いところを大きく横切るような目立つ砂流しが頻りにかかるのが印象的な短刀でした。

31. 太刀 銘筑州住左 南北朝・14世紀 国宝(号 江雪左文字)

二度目ましての江雪さん。
あ〜〜〜〜〜〜〜〜見に来て良かった!!!!!
堂々たる太刀姿。反りの具合までも素晴らしい。江雪左文字の何が一番好きかって、あの絶妙に延びた中鋒ですね。豪壮だけどどこかシャープさを感じさせるのはこの鋒のせいに違いない。センスを感じる。

岩切長束藤四郎も良かったし、長船光忠・長光・景光・兼光についても書きたいけれど長くなるので割愛。甲乙つけがたい名刀ばかりで、どれが一番と決められない素晴らしさでした!
さて今回の展示に於いて書いておきたのがコレ。

図録、大人気

ツイッターで情報を見ていた限り(間違っていたらすみません)、
11月12日の展示初日から、わずか6日後の18日には売り切れ。
11月26日に再入荷、12月1日に再び売り切れ。
12月10日に再再入荷、12月15日には完売。
再販を重ねても一週間経たずに売り切れてしまう人気っぷり。驚きました。

去年がいくら閑散としていたとて、刀剣乱舞とコラボした各地の美術館・博物館の様子が耳に入って来ないワケもないだろう、用意していない筈がないですよね。そにもかかわらず売り切れ続出。
きっと図録を買って行くような熱心・興味を持っている来館者がとても多かったんだろうな……そんな風に思っていたら転売という悲しいニュースが。⇒山陽新聞さんの記事
なんてことなの!!
このようなよくない行いを考えつきもしないのでショックでした。
刀が見たくて、そしてグッズも図録も本気でほしくて福山まで訪れた人たちが買えなかった。
そんな諦めのツイートを見ていたのでなんとも言えない苦い気持ちになりました。図録の中身をちょっと紹介しますね。

図録:「阿部家ゆかりの日本刀 小松コレクションと五箇伝の名刀」より(画像転載不可)

展示目録と同じ順に、今回展示されていた刀が全て掲載されています。
ふくやま美術館さんの解説で個人的に好きなのが、刀工の作風を説明する際に、他の作品名を挙げるところです。
例えば岩切長束藤四郎のページ場合、

姿は《名物厚藤四郎》(国宝・東京国立博物館蔵)のように重ねが厚く小振りで細身な物から、《名物平野藤四郎》(御物)のように一尺に迫る大振りかつ身幅の広いものまであり、(中略)刃文は多くが直刃であるが《名物後藤藤四郎》(国宝・徳川黎明会蔵)や《名物乱藤四郎》(重美・個人蔵)のごとく浅いのたれに互の目や小乱れを交えた華やかな作風も存在する。

言葉のみで作風を説明されるよりも、”見たことあるあの子”を思い浮かべる方がわかりやすいよね!

定利・当麻国行・伝長義の大きい写真もついてるよ!

遠征後バタバタしていて、これを書きながらようやく図録を読みました。しかしどうも図録の解説と自分のメモの差異が気になる…できたら遠征後すぐに図録と擦り合わせをしたかったな。
去年と比べて進歩はあるものの、まだまだ深く難しい刀の世界に唸りながら「江雪左文字と明石国行を見に行った話〜阿部家ゆかりの日本刀 小松コレクションと五箇伝の名刀〜」の記事を終わります。

ふくやま美術館 「阿部家ゆかりの日本刀 小松コレクションと五箇伝の名刀」
https://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/soshiki/fukuyama-museum/78174.html
2016年11月12日〜12月18日

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