亀甲貞宗を見に行った話

■日時 2016年8月24日、9月2日
■場所 東京国立博物館(東京都・上野)
■入館料  0円(年パス)
■交通費 388円(新宿⇔上野/往復)

来るべくして来たのか。亀甲貞宗。

13室の刀剣たち

  1. 古備前高綱
  2. 綾小路定利
  3. 来国行
  4. 千手院重行
  5. 伝長船光忠
  6. 長船兼光
  7. 越中則重
  8. 相州貞宗
  9. 伝三原正家
  10. 相州綱広
  11. 大隅掾正弘
  12. 肥前忠弘

今回はこの12振。
丁度トーハクのおじさんとも会えたので、ご教授頂いたことも交えて紹介していきます!

トーハクのおじさんとの出会いについてはこちら

太刀 古備前高綱 銘高綱 平安時代・12世紀

太刀 古備前高綱 銘高綱 平安時代・12世紀

実際に見たときはこんなに反っている印象はなかったのに、写真で見ると反りが強いですね。
小互の目の刃文は物打ちよりも少しだけハバキ寄りの方、土置きがうまくいっていないのか刃文が抜けているところがあります。

太刀 綾小路定利 銘定利 鎌倉時代・13世紀 重要文化財

太刀 綾小路定利 銘定利 鎌倉時代・13世紀 重要文化財

先ほどの高綱と比べると輪郭のはっきりした互の目。この時代のものにしては反りが浅いと感じました。刃縁に沸がたくさんついています。

太刀 来国行 銘国行 鎌倉時代・13世紀 重要文化財

太刀 来国行 銘国行 鎌倉時代・13世紀 重要文化財

肌がよく詰んでいます。
説明に「国行の作は身幅の広いものと比較的に細身のものと二種類があり、これは後者である」と書いてありました。明石国行含む今までに見たいくつかの国行と比べても、やや細めだと感じました。

京逆足(太刀 銘国行)

刃文の中に「京逆足」(きょうさかあし)というものが見られます。
互の目の足がまっすぐ刃に向かうのではなく、斜めに茎側に向かいます。
刃文と地のコントラストが低いのでちょっと見えにくいかもしれませんが、物打ちのちょい下あたりにあるので探してみてね。
あとハバキのすぐ上に楕円の模様みたいなものがあります。これが来鉄。地鉄がツルッとした、地沸のつかないものが来肌とのこと。

太刀 千手院重行 銘大和国住重行 鎌倉時代・13世紀

太刀 千手院重行 銘大和国住重行 鎌倉時代・13世紀

今回の展示物の中で一番細身!小鋒で姿がきれいです。刃縁に荒い沸。

刀 伝長船光忠 無銘 鎌倉時代・13世紀 重要文化財

刀 伝長船光忠 無銘 鎌倉時代・13世紀 重要文化財

「伝」光忠。パッと見、光忠なんだ…?と感じました。砂流しが入っているのにも驚きます。

刃文アップ(刀 伝長船光忠 無銘 鎌倉時代・13世紀 重要文化財)

蛙子丁子の混じった丁子刃で、刃縁がキラッと輝きます。映りも立っていて、見る高さによって表情が変わります。上から見る方が楽しいかも。
どこかの記事で「一文字は鋒まで刃文が派手だが、長船は物打辺りでおとなしくなる」と書きましたが、その特徴は景光以降に多く見られるようになるとのこと。
ナルホド、だから生駒光忠も燭台切光忠(の押形)も鋒まで乱れているのね。この伝光忠も鋒まで乱れています。
ちなみに私にはサッパリわかりませんでしたが、この刀は光忠にしては地鉄が汚いそうです。

太刀 長船兼光 銘備州長船住景光観応□年八月日 名物福島兼光
南北朝時代・14世紀 重要文化財

太刀 長船兼光 銘備州長船住景光観応□年八月日 名物福島兼光
南北朝時代・14世紀 重要文化財

棒樋と添え樋、そして行の俱利伽羅が彫られています。

片落ち互の目(福島兼光)

こちらの互の目、国行の太刀に入っていた京逆足とは反対に、鋒に向かって足が伸びています。こういう互の目を「片落ち互の目」(かたおちぐのめ)と呼びます。
澤田先生のブログに形落ち互の目のわかりやすい写真があります→こちら

孕み龍(福島兼光)

胸のところが張っている龍を「孕み龍」(はらみりゅう)と呼びます。
孕み龍は景光と兼光にしかみられない(と私は習いました)ようですが、我々に馴染みのあるあの子、骨喰藤四郎も孕み龍なのです……それについては最後に書きますね。

短刀 越中則重 銘則重 鎌倉時代・14世紀 重要文化財

写真なし

う〜ん、とてもわかりやすく内反りな短刀!刀が斜めに掛けられているように見えるくらい内反り。
内反りが強く、かつフクラ枯れた鋒のものを「たけのこ反り」と呼びます。
そして肌がすごい!地沸よくつき、うわんうわんとうねった松皮肌が刃文にまで差し掛かっています。そのままでも姿勢を軽く上下に動かしながら見ると見えますが、是非単眼鏡で!

刀 相州貞宗 無銘 名物亀甲貞宗 鎌倉〜南北朝時代・14世紀 国宝

刀 相州貞宗 無銘 名物亀甲貞宗 鎌倉〜南北朝時代・14世紀 国宝

刀 相州貞宗 無銘 名物亀甲貞宗 鎌倉〜南北朝時代・14世紀 国宝

いろいろありすぎて何から書いたらよいのかわからんですな。
とりあえず、この角度よりも正面から見た方がカッコいい絶対に間違いない。
亀甲貞宗のどこを見ておけと言われたら、個人的には姿です。姿がよい!元幅はそこそこ太さがあるのに、鋒に行くに連れて絶妙に細くなり寸の詰まった中鋒。亀甲貞宗は磨上げられていますが、目釘孔はひとつのみ。磨上げられる前の目釘孔は見当たりません……元は長大な太刀であったことがわかりますね。(その時は小鋒と言ったのだろうか)

亀甲紋(亀甲貞宗)

写真ブレブレ。茎に彫られている菊花亀甲紋。これは大磨上げの後に彫られたものとのこと。こんな普段隠れて見えないところにあるなんて……ゲームの亀甲貞宗の装束はまさにコレですね。
刃文は小のたれ基調。刃縁に沸がつき、細い金筋が見られます。肌も詰んでいて美しい。
初めて亀甲貞宗を見た時の私は、どこがいいのかちっともわかりませんでした。だって初心者にもわかりやすい刃文ってやつが地味なんだもの。
ではなぜ国宝?その疑問からじっっと見つめていたらば、姿の良さに気づきそして好きになりました。
派手な刀や、力強くドギャーンとした刀が好きな方には全然響かないかもしれませんが…静かな美しさを感じて頂ければ貞宗ファンとして嬉しいです。

追記

亀甲貞宗の紋がどこ由来なのかと、磨り上げられた時期が知りたい。

太刀 伝三原正家 銘備後国住左(以下切 鎌倉〜南北朝時代・14世紀

写真なし

長さの割には細身の刀だと思いました。結構長い。メモしていなかったけどたしか直刃だったような。
この刀を下から覗き込んでみると、刃文と地の境がキラッとしないことがわかります。出来はいいのにそれが「つまらない」とされるようです。きれいな刀だと思うんだけどな。

刀 相州綱広 銘相州住綱広 室町時代・16世紀

刀 相州綱広 銘相州住綱広 室町時代・16世紀

彫物 草の倶利伽羅(銘相州住綱広)

うわ〜映りがすごいな、と思ったら映りではなく皆焼だそうです…たしかに、綱広だったら映りではなく皆焼か。一人で見ていたら映りだと判断してしまいそうなくらい、刃文と言うにはコントラストが薄いです。彫物は草の俱利伽羅。
それにしても…綱広が相州鍛冶でなく三島鍛冶ってホント?

刀 大隅掾正弘 銘大隅掾藤原正弘 慶長十一年三月吉日
江戸時代・慶長11年(1606) 重要文化財

刀 大隅掾正弘 銘大隅掾藤原正弘 慶長十一年三月吉日
江戸時代・慶長11年(1606) 重要文化財

重ね厚く重そう。大鋒。のっぺりした印象。

脇指 肥前忠広 銘武蔵大掾藤原忠広此忠弘埋忠明寿弟子寛永六年九月廿四日切物明寿七十二才時
江戸時代・寛永6年(1629) 重要美術品

脇指 肥前忠広 銘武蔵大掾藤原忠広此忠弘埋忠明寿弟子寛永六年九月廿四日切物明寿七十二才時
江戸時代・寛永6年(1629) 重要美術品

刀でなくて脇指なんですね。銘には「埋忠明寿が72才の時に彫物をした」と書いてあります。埋忠は忠広の師で、堀川国広と並び新刀の祖と言われています。

金筋(肥前忠広)

筆で棟に向かって掃いたような丁子に砂流しもたくさんあります。ハバキ元に長い金筋!

以上になります。



さてここで今回の展示とはまったく関係ない骨喰藤四郎の話。
骨喰藤四郎の現在の姿は直刃ですよね。しかし焼ける前の刃文はどうか?
現物を見ている人もいるでしょう、石川県立美術館で展示されていた本阿弥光徳の刀絵図にその姿が載っています。(つるぎの屋さんのページでも焼身になる前と思われる刃文が描かれている押形が見られます。)

  • 元々の刃文は直刃ではなく片落ち互の目
  • 片落ち互の目は景光・兼光の得意とする刃文
  • 孕み龍は景光・兼光のみ、もしくは景光以降に見られるようになったとする

はてさて、骨喰藤四郎は本当に吉光の作なのか?
この話を聞いたときはなかなか衝撃的でした。本当のとこはどうなんでしょうね。
もしかしたらゲームの骨喰藤四郎は、記憶が戻らない方がいいのかな。

亀甲貞宗 刀剣乱舞実装によせて

トーハクの年間展示予定が更新された時、亀甲貞宗が展示されると知っただけでも嬉しかったのに。
永青文庫での末兼先生の講演を聞きに行った方から、やたら亀甲貞宗をプッシュしていたとおしえて頂きました。「これは亀甲貞宗実装か!?」ヤダーマサカーwなんて盛り上がっていた数日後にキャラのチラ見せ。亀甲紋。嘘かと思った。ブログコメントやフォロワーさんから「亀甲貞宗実装おめでとう」の言葉を頂いて、亀甲貞宗が好きな人と認識されているというのも嬉しかったです。
一年間いろいろな刀を見て、去年よりは多少刀を見慣れた目で見る亀甲貞宗。思い出と等しく美しいままなのだろうか?と若干の不安を抱きながら入った展示室。位置はもう知っている。そこに集まる女の子たちは、ゲームに登場する刀になったことを象徴するかのよう。
万感の思いを込めて一言。

「ようこそ本丸へ!」

白熊置物 東京国立博物館
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